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 だから新しい曲を聴いたときだって、すぐに気づいてしまった。思い違いだと言ってほしくて、不安を拭いたい一心で、おれは聞いた。 「父さん、これは誰に書いた曲なの?」  思えばおれはあのとき、口を縫い合わせておくべきだったのだ。息も漏れ出ないほど丁寧に。そうすれば母さんが父さんを問い詰めることも、知らなくていい事実を知って泣くこともなかった。幼いおれの罪は、一人で秘密を抱える勇気がなかったことだ。  最後の思い出はドライブだった。  いつもなら父さんがギター片手に歌い出し、おれと母さんは一緒に口ずさむはずだった。父さんを独占できる小さなライブハウス。ささやかな家族の時間。  けれどその日、父さんは膝の上で拳を握り締めたまま、顔を上げることすらしなかった。  トンネルに入ると、車内は頼りないオレンジ色に染められた。等間隔に配置された照明によって母さんの横顔が浮かび上がっては消えた。 ──お父さん、もう一緒には暮らせないんだって。  弱々しく笑う母さんの言葉をおれは黙って聞いた。父さんは振り絞るように「ごめんな」と言い、折れるほど強くおれを抱きしめた。そして振り返ることなく立ち去り、二度と帰ってこなかった。  ある日学校から帰ると、がらんどうになった部屋がおれを出迎えた。そこに父さんの面影はなかった。マイクもギターも楽譜もなにもかもすべて。母さんは一切の音楽を聴くことをやめ、おれたちの日常から、歌が消えた。
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