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2.
「世良くんてさあ、日高一晴の息子ってホント?」
顔も声も似てるよね、とクラスの女子が無邪気な笑顔を向ける。おれはいつも通り大げさに肩をすくめた。
「まさかでしょ! だったらこんなトコいないよ」
お決まりのセリフを返すと、女子は「なあんだ」と肩を落としながら去っていく。入学して何度目の光景だろうか。適当にあしらっても、父さんのことを聞いてくる奴は後を絶たない。
六年前、おれたちのもとを去り、新しい恋人と付き合い出した父さんはまるで憑き物が落ちたかのようにスターへの階段を駆け上っていった。テレビCM、コンビニの有線放送、すれ違う子どもの鼻歌。至るところに現れる父さんに限界を迎えた母さんはおれを連れて東京を飛び出た。まさかこんな田舎町でさえ父の影がつきまとうとは知らずに。
気づけばおれは屋上に続く階段を上っていた。母さんが選んだローファーは少しだけサイズが小さくて、無理やり指を縮めて歩いた。
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