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 屋上の扉を開けると、熱風が顔にまとわりついてきた。日射しに目を眩ませながら、おれは息を吸い込んだ。 「あー」  声を吐き出すと楽になることに気づいたのはいつだったろう。晴れた気持ちで踵を返そうとした、その時だった。 「ちょっ……人来たからやばいって!」  無人と思われた屋上に声が響き、おれはとっさに壁に背中を張りつけた。金髪の男が貯水タンクの陰から現れ、おれを睨みつけ舌打ちする。なにも見てませんよ、と首を傾げてみたものの、かえって神経を逆撫でしてしまったみたいだ。 「せっかくいいところだったのにぃ」  男の背中を気だるげに見送る女子には見覚えがあった。隣のクラスの(かり)()鈴蘭(すずらん)だ。  風になびくウェーブのかかった髪をうっとうしそうに払いながら、おれの存在など気にも留めずに丈の短すぎるスカートを(はた)いている。  一度も話したことがない彼女のことをおれはよく知っていた。いや、おそらくほとんどの生徒が彼女を知っているに違いない。なぜなら彼女は── 「代わりにあんたでいいや。ちょっと遊ばない?」  校内一の男好きとして有名だからだ。
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