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 返事をする前に雁野はおれの手を取って階段を駆け降り、無理やりバイクの後ろに乗せた。急がないと街に出る前に日が暮れてしまうらしい。 「手回したら?」  雁野が身をよじり、細い腰を指差した。 「遠慮しとくよ」 「ふーん。女慣れしてるのかと思ってたけど、意外とピュアなんだ」 「どういう印象なのさ? 心外だなあ」  ヘルメット越しに彼女のくぐもった笑い声が聞こえる。狭い肩幅、透けるキャミソール、香水とシャンプーの混ざった匂い、派手なネイル。そのすべてに胸がざわつく。  しばらくして辿り着いたのはクレープ屋で、おれは少し拍子抜けした。 「あたしのことはリリーって呼んでよ!」 「……きみは雁野でしょ?」 「こっちの方がカワイイじゃん?」 「はいはい、わかりましたよ雁野さん」  クレープを片手に雁野はもう一方の手でおれをポカポカと殴った。それをいなしながらも、なるべく早く食べ終えることに集中する。  屋上にいた金髪男は雁野の遊び相手らしかった。二人の時間を邪魔した罰として、なんとか今日をしのげば彼女の気は済むと思い込んでいた。  しかしその後も雁野はことあるごとにおれに絡んできた。きっとキープの一人にしたいだけなのだろう。  誘いを断りきれずにいたのは、彼女があまりにも強引だったからだ。
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