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 雁野はおれのクラスに入り浸るようになった。女友達が一人もいないとかなんとか。  彼女と過ごすのは悪いことばかりではなかった。女子に嫌われているおかげか、女子が寄りつかないのだ。父さんのことを詮索してくる奴もいなくなった。また、雁野自身もおれの出自に興味なんてないようで、おれは次第に不思議な心地よさを感じ始めていた。  屋上で昼食を食べ、放課後はバイクで街へ出た。梅雨の湿った空気も、うだるような真夏の熱気も、雁野はお構いなしに切り裂いて走った。時折り風に運ばれてくるくぐもった鼻歌はおれをどこか苦しく、懐かしい気持ちにさせた。 「ねえ、今日生ドーナツ食べ行かない?」 「えー、昨日食べたじゃん」 「あれはただのドーナツ!」 「違いがわかんないし、太りますよ?」  信号待ちのたびにおれは悪態をつき、雁野はおれの腕をつねった。 「じゃあさ、カラオケにしよ! おごるから」 「めんどいからパス。金髪男と行ってきなよ」 「あんたといるのが楽しいんだもん!」  振り向いたヘルメットのシールド越しにあどけない笑顔が見える。雁野の言葉には嘘がなくて、気が抜けてしまう。油断すると、たまに泣きそうになる。
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