だって、悪役令嬢ですから!

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だって、悪役令嬢ですから!

「クララベル・ウィーズリィ公爵令嬢!俺はお前との婚約を破棄して、ここにいるミルキィ・グリームニル男爵令嬢を新たな婚約者とする!これは決定事項だ!」  それは、卒業記念パーティーの真っ最中に行われました。みんなの注目を浴びて悦な表情に浸っているのは私の婚約者でこの国の王子ですわ。ちょっとお馬鹿でおっちょこちょいでナルシストなのが玉に瑕な彼はその右手にひとりの可憐な令嬢の腰を抱いています。彼女こそが先ほど新たな婚約者だと紹介されたミルキィ嬢ですわ。 「あらまぁ、婚約破棄ですか。しかもこんな人目のある所で……見た目だけのあんぽんたんが思い切りましたわね」 「誰があんぽんたんだと?!それはあれか!心の声と建前が入れ替わってるってやつか?!」 「いえ、王子相手に使う建前なんて持ち合わせていませんのでそのまま本音ですが……もしかして建前を使ってもらえると思っていましたの?」 「残念そうな目で俺を見るな!不敬罪で訴えるぞ!?」 「そうゆうことは敬ってもらえるような人間になってからおっしゃってくださいませ。残念王子様」 「俺の名前はザネッドだぁあ!!」 「存じております」  王子は地団駄を踏みながら「きぃぃぃぃ!!」と叫んでいます。すぐにイライラして癇癪を起こすからいつも話が前に進みませんのよね。カルシウム不足かしら? 「ちゃんと牛乳を飲まないから、カルシウムが不足するんです。好き嫌いはいけないといつも言ってるではありませんか」 「う、うるさい!あんな臭いもの飲めるかぁ!なんか後味が嫌いなんだ!牛乳なんか飲まなくっても……」 「牛乳だけではなくて魚だって臭いとか小骨があるからとお食べになりませんし、野菜全般も苦手だからとハンバーグに紛れ込ませた細切れの人参をほじくり返すのはいかがなものかと……」  ザネッド王子は好き嫌いが多くて城の料理人が困っていましたわ。私が頬に手を当てため息をつくと、この騒ぎを遠巻きに見ていた他の生徒たちが「王子なのに好き嫌いが激しいんだ」とか「細切れの人参をほじくり返すって子供じゃあるまいし……」なんて囁いています。やっぱり敬われたいのなら好き嫌いを治すところから始めないといけないと思います。 「う、うるさいうるさいうるさーい!!俺の偏食なんか今はどうでもいい!それより婚約破棄だ!お前が俺に寵愛されているこのミルキィに嫉妬して酷いイジメをしていたのはわかってるんだぞ!」 「……え、野菜嫌いだからってそこま……え、えーと。そ、そうですぅ!あたし、クララベルさんからいじめられたんですぅ!」 「えっ……」  ザネッド王子の偏食履歴に若干引き気味の様子を見せながらもミルキィ嬢はなんとかうるうる顔を作り目尻に涙を浮かべています。プロの役者は涙すらも自由に操れるそうですがまさにミルキィ嬢はプロの領域……いえ、もう少し精進が必要ですわね。口元が少々引きつっていますもの。 「あらまぁ、つまりザネッド王子は私がミルキィ嬢をイジメていた証拠や確信があると……」 「そうだ!言い逃れは出来ないぞ?!お前のようにか弱い者をイジメる奴を“悪役令嬢”と呼ぶそうだ!まずは「ええ、その通りでございます!婚約して約3年、やっと私の意を汲んで下さいましたのね!」は?」  私はその時初めてザネッド王子に好感を持つことができました。これまでどれだけ私がしても全然気づいてくれなかったのに……やっぱりヒロイン(ミルキィ嬢)がいてこそだったのね!と。  そう、実は私は転生者なのです。生前大好きだった恋愛乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いた時はそれもう……狂喜乱舞しました。だって、1番大好きなキャラクターだったんですもの。  なので、ゲーム本編が始まるまで我慢出来なかった私は大好きな悪役令嬢を完璧に再現するためにそれはもう奮闘したのですわ。  まずは完璧な淑女となるべく猛特訓し、学園の秩序を守るために貴族の法律と学園の校則を徹底的に網羅しました。わずかな抜け道だって許しません。ヒロインが現れるまでに舞台を完全に整えておかなくてはいけませんもの。悪役令嬢としての地盤も作っておきたいですからね!  なので、「学園ではみんな平等だから!」とか「田舎から出てきたばかりなので貴族のルールとかわからなくて☆」とか「ただのお友達なのにひどぉぃ!」なんて口にしては傍若無人に振る舞うヒロインモドキどもを一掃しましたわ。選ばれた真のヒロインは唯一人!その他ヒロインモドキなど私は認めません!  そのヒロインモドキたちは、婚約者のいる令息たちに不必要に纏わりつき籠絡しようとしていたので「男性との距離はもう少し考えなくてはいけませんわ(ヒロインモドキが調子乗ってんじゃねぇぞゴルァ!)」と圧をかけ、令息たちの方にも「ご自分の婚約者を大切に出来ないと後悔しますわよ(お前らが今から浮気三昧して学園の空気が悪くなったらヒロインが無双しにくいだろうがオラァ!)」とこちらにも圧をかけ……。きっとこれで天真爛漫でか弱い令嬢たちを威圧する怖い公爵令嬢とか、頼まれてもいないのに人様の婚約関係に苦言を強いる面倒くさい公爵令嬢とか……そんなふうに噂をされるに違いありません!ふふふ、これで悪役令嬢に一歩近づけましたわ!  しかし学園の秩序はなんとか守られたものの肝心の王子からは「なぜか令息たちがお前に感謝していたんだが、何をしたんだ?」と首を傾げられてしまいました。そんなこと私が聞きたいです。そこはちゃんと私に王子の婚約者だからって調子に乗るな!的なことをいうところではないんですか?全然悪役令嬢っぽい噂も聞こえてこないし、やはり簡単にはいきませんね。  まぁ、ヒロインが現れる前に学園(現場)が荒らされなくて良かったとしましょう。そうです、学園で恋の嵐を撒き散らすのはヒロインなんですから!  そして、とうとうヒロインが現れました。平民だったのに突然貴族の隠し子だと発覚してそのまま学園に編入してきたヒロインが!思った通りヒロインは王子と仲良くなりその距離を近づけていきました。やっぱり鉄板の王子ルートですわよね!  それから私は頑張りました。まずは基本からと思いヒロインを呼び出して「王子は阿呆のボンクラですから遠回しに言っても気づきません。でもナルシストの勘違い野郎なので見た目を褒めつつ手のひらで転がすのがよろしいですわ!(いくら学園とはいえ王子様に対して馴れ馴れしいですわよ)」と忠告をしたり、教科書を破こうかと思ったらすでボロボロだったので私が破くために新しい教科書と交換しておいたり、制服にわざとジュースをかけて汚してやろうとしたらなぜかすでに泥だらけだったので奪い取って洗濯したり……。そしてちゃんと大勢の前でヒロインの教科書(もったいないから古い方)を真っ二つに破って、洗濯したての制服を渡して汚してやりました。まぁ、染み抜きってけっこう大変だったのでまた洗うとなると手間だからキレイな浄化水をかけてやりましたけどね!周りがかなりざわついていましたけれど「彼女は私のモノ(獲物)でしてよ!」とイジメ宣言もしましたし完璧です!  そうして、ちゃんとヒロイン本人に言いましたーーーー「一生のお願いですから、私を立派な悪役令嬢にして下さい!」と。  それからもあれやこれやと手を尽くし、私は頑張ってミルキィ嬢をイジメました。極悪非道を尽くしましたとも!王子がいつ私を悪役令嬢だと罵ってくれるか楽しみにしながら……。 「やっと!悪役令嬢だと認められましたのね!少しでも早く断罪されるために王子を馬鹿にしまくってましたのに全然効果がなくってがっかりしてましたのよ。やっぱりいくら馬鹿にしても本当にお馬鹿さんだから真実を言われても響かないんだなぁって……うふふ、そう言えば王子は溜め込んでから爆発するタイプでしたわね。私ったらうっかりしていましたわ」 「は?え?」 「さぁさぁ、婚約破棄ですわよね?もちろん喜んで!実は国外追放されるつもりでもう追放先は見つけてありますの。平民になってひっそり暮らす予定ですからザネッド王子はヒロ……ミルキィ嬢と存分にイチャイチャしてくださいませ。あぁ~よかった!これで私が本物の悪役令嬢ですわ!夢が叶いましたわぁ!!」 「いや、ちょっと……えぇぇぇぇ?」  こうして大満足の私はいつでも婚約破棄出来るようにと持ち歩いていたサイン済みの書類を王子に渡して準備済みの追放先へと渡ったのだった。  それから1か月後。 「クララベル様ぁ~!」 「あらまぁ、ミルキィ嬢。どうしてここに?」  私が追放先の国にある別荘でのんびりしていると、なんとヒロインことミルキィ嬢が大きな荷物を抱えてやってきたのです。 「今頃は王子の新たな婚約者として教育真っ最中では……」 「あんな婚約なんて無効です!あたしが本当にお慕いしているのはクララベル様なんですから!」  そう言ってミルキィ嬢は「クララベル様がいなくなってどれだけ寂しかったか……!」と涙を浮かべたのでした。  なんでもミルキィ嬢は私以外の令嬢たちから酷いイジメを受けていたのだとか。そしてなぜかミルキィ嬢の中では私がそのイジメから助けたことになっていたのです。 「クララベル様は権力をチラつかせて寄ってくる王子の対処法を教えてくれました。そのおかげで緊急場面では上手く躱す事ができて貞操も守れたんです!それに、何も言わずに破られた教科書を新しくしてくれたり、制服の泥を洗ってくれました。それからみんなの目の前であたしには手出し無用と宣言までしてくれて……そのおかげで酷いイジメもなくなったんです!なにかお礼がしたいと思っていたらクララベル様が“悪役令嬢になりたい”って願われたのでそれを叶えようと頑張りましたが……やっぱりクララベル様とお会いできない生活なんて耐えられませんっ!  それにあんな王子なんとも思ってませんから!あの人、あたしのことを可愛いと言うばかりで言葉に中身が無いし阿呆だし、ピラフの細切れピーマンをほじくり出してたんですよ?!」 「あらまぁ……」  どうやら王子はヒロインに振られてしまったようですね。というか、私の願いを叶えてくれるために無理をさせてしまっていたようです。これは申し訳ないことをしました。 「では、今度はお詫びにミルキィ嬢のお願いを叶えますわね。なにかお望みはありまして?」 「それなら、ずっとクララベル様と一緒にいたいです!」  そんなわけで、優雅な追放生活が少しだけ賑やかになりました。まぁ、そろそろ退屈だったのでなにか新しいことを始めようかと思っていましたからちょうどよかったかしら? 「……実は続編のヒロインがこの国に住んでるっていうのもあって追放先に選んだんですけれど……続編でも悪役令嬢になれないかやってみようかしら」 「よくわかりませんけど、クララベル様は“悪役令嬢”がお好きですね」  首を傾げるミルキィ嬢に私はにっこりと微笑みを見せました。 「だって、私は悪役令嬢ですから!」 終わり
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