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「それで、この機械をどうするつもりですか」
木丸が詰め寄った。
「どうって、売り出してカッコイイ広告も打っただろう」
顔を背けた飯高も、意外な結果に暗く沈んでいるようだった。
「全然売れないじゃないか。
こんなに世の中のことを考え、寝る間を惜しんでプログラミングしたというのに」
抗議するように、顔を覗き込んで不満を顔全体に表した。
「俺のせいじゃないし」
口を尖らせ、困惑の表情で床の一点を見つめた飯高は、次の言葉が見つからなかった。
「これでは、家賃さえ払えないぞ。
素晴らしい発明なのに、特許料を払うのさえ不安だ」
マイクスタンドに「黄金スピンクス」と名前を大きく書いたマイクが刺してあり、広告チラシの束が傍らにある。
そのビジュアルは、人の心を捉えたはずだ。
でも買わない。
考えても分からない。
学生時代、美術の成績はいつも良かった飯高の、渾身の自信作だ。
そしてアイドルのシルエット動画素材を、なけなしの金で買って貼り付けても効果がなかったのだ。
マイクの性能は申し分ない出来栄えだ。
そして広告も悪くはないはず。
「どうしてだよ ───」
拳をドンと机に打ち付け、奥歯を噛みしめた。
カラオケで人類を救う。
理想が高すぎたのだろうか。
「まあ、自分を責めていても始らない。
次の手を打とう」
マイクのスイッチを入れると、木丸は歌い始めた。
「次とは ───
何か当てがあるのか」
色とりどりの光に包まれ、恍惚が顔いっぱいに広がった木丸は華麗なステップで踊り出した。
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