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若い男が、研究所のドアの前に現れた。
防音がしっかりした、白塗りの建物の外観は立派に見えた。
毛足の短い玄関マットを踏みしめ、キョロキョロと周囲を見渡すと、閑静な住宅地に人影はなかった。
インターホンを鳴らすと、中から鍵を開ける音がした。
スチール製のドアがゆっくりと開く。
木丸は男の名刺を受け取ると、中へと促した。
油川と名乗った男は赤いシャツと黒いパンツを着こなし、日焼けした精悍な顔とパーマがかかった茶色い髪が印象的だった。
中央のスチールデスクに、ちんまりとマイクが置かれていた。
「これが、そのマイクですか」
油川が手を伸ばす。
「黄金スピンクス ───」
眉間に縦皺を寄せ、側面の文字を読み上げた。
「新発売のマイクがもたらす未来は黄金のように輝き、神秘的なスフィンクスのように謎に満ちていて魅力的だ、という意味です」
胸を張って木丸が言うと、静かにマイクスタンドへ戻した。
油川は立ち上がり、思案顔で窓へ向かって歩き始めた。
飯高は彼の背中をぼんやりと眺めていた。
プロの目から見て、カラオケマイクを売り出すために知恵を絞った名前とデザインをどう言われるのだろうか。
いささか関心があったし、自信もあった。
窓際まで進むと、外の景色を眺めたまま油川が言った。
「確認しますが、このマイク、売れてないのですよね。
なぜだと思いますか」
間髪入れずに木丸が言った。
「さっぱりわからないのです。
これを使えばとても気持ちよく歌えるし、心から幸せな気持ちになるのですよ」
すると、窓の光を背に振り向いて鋭い眼を向けた。
「質問に正対していませんね。
きちんと考えたのですか」
語気を強くして、叩きつけるように言い放った。
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