6 地の利

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6 地の利

作物も豊作になったとの報告を聞き、一旦安心したところで、皇帝陛下が暗い顔をしてやって来た。 「次の戦が始まったのだ。」 「そうでございますか。 して、どうしてそのように暗い顔をされておりますのか?」 「ふむ。 この陣図を見るが良い。」 皇帝陛下はテーブルの上の陣図を指差した。 そこにはこんな陣図が載って居た。 【陣図】           【大山】          ★★★★★★★           ★★★★            ★★             ★ 魚鱗の陣3万          【下り斜面】       ☆@@@@@@@☆         ☆@@@@☆          ☆@@☆            ☆ 鶴翼の陣2万5千 とあった。 「なるほど。 地の利がございませんね。」 私は陣図を見てすぐにそう言った。 普通、地面が高い方に陣を敷くのが有利とされる。 相手は大山のふもとに陣を置き、我が軍はその裾野に陣を置いている。 高低差で負けの気配が濃い。 それと、もう一つ言えるのは、相手が上手く地理を利用している点だ。 魚鱗の陣は前方の攻撃には強いが、後方の攻撃にはめっぽう弱い。 しかし、敵陣には、後方に大山がある。 これは、魚鱗の陣の弱点を逆手に取った手法と言える。 「なるほど、今回は手強いですわね。」 私は言った。 「そなたにも方法が浮かばぬか…」 「あら、そうは言っておりませんわ。」 「しかし、この陣図では… どう逆立ちしても…」 「皇帝陛下、戦においては常識を慮る事も大切ですが、形勢が不利な場合には常識を破る事も、また、必要でございます。」 「と言うと…?」 「良いですか? 相手は後ろに大山がある事で、安心しております。 夜などは、前方にだけ守りを置いて寝こけている事でしょう。 それどころか、勝利を確信し、宴を開いているかも…しれません。」 私はゆっくりと言った。 「不意をつくという事か?」 「確かに私の作戦は不意をつく事、にございます。 しかし、陛下のお考えの物とは異なるかと思いまする。」 「わからぬ。 はっきりと申せ。」 「陛下? 陛下は土魔導師を10人従えておりますね? これは、他国には無い素晴らしい力でございます。」 「それがどうしたというのだ?」 皇帝陛下はなおも分からないという。 「大山の裏にまわり、トンネルを掘るのでございます。」 「何!?」 「普通はトンネルを掘ると言えば一年は掛かるでしょう。 しかし、土魔導師が10人居れば、どうですか?」 「分かったぞ! 大山の裏からトンネルを掘り、奇襲攻撃! そして、前方からも攻撃をかけて殲滅するのだな!?」 「ご明察にございます。 陛下、陛下が私を必要とする時どんな時も力になりましょう。」 「…今宵必要だと言えば…?」 「は? 他に戦があるのですか???」 「はぁ… もう良い…」 皇帝陛下はため息を吐き去っていった。
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