4.魔王、ラーメンおいしい。

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4.魔王、ラーメンおいしい。

この日本という世界に来てから早三ヶ月。 幸い文字についても問題は無かったため、とにかく情報収集を進め、日本について色々と調べ、それに伴い様々なことが判明した。まず日本に来たときから疑問に思っていた魔法の存在について。どうやら日本に『魔法』は実在しないらしい。ただ、様々な本を読んでみて分かったことだが、魔法、という言葉は存在するそう。『あくまで人間の空想の中でのもの』という認識だと分かった。ちなみに日本でも、魔法自体は問題なく使うことが出来た。しかし、これをシズなど、日本の住人の前で見せると面倒なことになるのが容易に想像できるため、魔法を使えることは隠しておくことにする。 しかし、日本の科学技術には驚きだ。ボタン一つで適温の湯が沸き、15分ほどで風呂に入ることが出来る。平和(フリーデン)の中でもトップレベルの技術力を誇るノファカ地方でも、風呂に入ろうと思えば1時間以上は要したものだ。極めつけはスマホとやらである。正式名称をスマートフォンというらしい。一見、ただの長方形の金属の塊にしか見えないが、側面のボタンを押し、電源を入れることにより、世界中と繋がることが出来る。これには久々に興奮し、シズに驚かれた。 「レイ君も、興奮することあるんだ…」 失礼な。僕を何だと思っているんだ。 ちなみに魔法でも似たような事が出来るが、一般のヒト族には魔力消費が激しく、あまり使わない。僕は割と使うけど。 外に出れば、鉄の塔がそびえ立っている。コンクリートという丈夫な素材で作られているらしいので、素材生成の魔法でいつでも生み出せるようにしておいた。他にもプラスチック、ゴムなど。 日本の地図もシズに見せてもらった。僕がいる東京都は、小さい地域だが、日本の地域の中では最多の人口を誇っているそう。驚きである。ここ、千代田区には、日本の重要な施設が多くあるらしい。それと鉄道が多く通っており、非常にアクセスの良い地区だと、シズに教えてもらった。なかなか便利だということは分かった。 これくらいだろうか…。あぁ、日本に来て鏡を見たら、顔が変わっていたな。身長…体格は変わっていなかったから、容姿も変わっていないとなんとなく思っていたが…。くすんだ赤茶色の髪から、黒髪へと変化。それと、目つきが良くなっている。前世では目つきが悪くて、睨まれていると勘違いされることも多かったから、まぁ良い変化か…?あとは…気持ち、肌が白くなっていると思う。日本でも白い方なのだろう、シズに『うわ、肌白っ!?キレイっ!』と驚かれた。キレイらしい。まぁ、汚いよりは良いわな。 そう、それと僕は今バイトをしている。 僕は土曜日、日曜日以外の11時〜18時まで、シズの家から徒歩30分と少しのラーメン屋とやらで接客の担当をしている。このバイトに入った当初は、敬語とやらを覚えるのが非常に大変だった。平和(フリーデン)では、敬語なんて使ったことがなかったからだ。勇者…名をカルトといったか。年端もいかぬ、僕と同い年の少年を、気持ち悪いほど丁寧な言葉遣いで崇める気にはなれなかった。僕が初めて勇者を目にしてからすぐだったしな、"アレ"を起こしたのは。 少し話が逸れたが、なんとか敬語を習得し、昨日ようやく接客の仕事をすることが許可された。それにしても、店主…ノブオには感謝だな。僕なら敬語も使えないようなヤツ、すぐに放り出すというのに、一生懸命僕に教えてくれた。 さて、このラーメン屋でバイトをしていて、一人…いや正確には三人、気に留まった人物がいた。 二人の少年、一人の少女。彼らはこのラーメン屋に住み込みで働いているらしい。稀にだが、常識違いなことを言っている。僕は常識の欠如が目立つと困る。ので、手に喋らないようにしているから、怪しまれるようなことはないと思うが。気になったのでノブオに聞いてみることに。 「なぁ、ノブオ。いつも一緒にいるあの三人、住み込みで働いてるらしいが…」 「ん?あぁ、アイツらはな、うーん、大体、一ヶ月前だ。お前が働き始める1週間ぐらい前にな、外の掃除をしてたら、三人揃って右往左往してたんだ。何してんだと思って話しかけてみたら、『家が無いんです』だと。困っとるみたいだったからな、オレの家でもあるこのラーメン屋に、衣食住を提供する代わりに住み込みで働いてもらうことにしたんだよ。確かお前さんと同い年だぞ?仲良くできるんじゃねぇか?」 思ったよりも色々喋ってくれた。 それにしても… 「そうか…ありがとう」 ノブオと三人衆が出会ったのが、僕が日本に来たのとほぼ同時期だというのが引っ掛かるな…。もしかして、僕以外にも平和(フリーデン)から転生してきたヒトがいるのだろうか。まぁ、いてもおかしくはないか…。 って、平和(フリーデン)の人々からすれば、僕は『魔王』な訳で…滅亡させたことになっているから、恨まれてる、訳で… …これ…もし他にも平和(フリーデン)のヒトが日本に転生してきているとして…もし、僕が『ノヴァ・ストラ』だとバレたとして…。 …かなりマズい…よな?今更だが。 偽名を名乗っておいて良かった。『ノヴァ』は平和(フリーデン)でも稀な名前だったし、勇者には名乗っているから、僕の名前が『ノヴァ』だと知れば、かなり怪しまれること間違いなかっただろう。 さて、このバイトを始めて良かったことといえば、ラーメンが非常に美味しいことである。まかないとやらで、働いている人は1日1杯、昼休憩(昼の客ラッシュが終わったタイミング)に無料で食べられるのだが、始めて食べたときは本当に感動した。こんなに美味しいものが存在して良いのだろうか。これにもまた興奮しすぎて、スマホと同じく、シズに問い詰めてしまった。 「お、おぉ…よく分かんないけど、レイ君はラーメンが好きなんだね……………?…レイ君、最近興奮してること多くない?すごいびっくりしてるんだけど」 びっくりとは何だ。失礼な。 ◇❖◇ 今日もバイトを終え、家に帰ってきた。 「ただいま」 玄関を開けると、シズが待ち構えていた。 「おかえりレイ君!今日やっと接客出来たんだって〜?ぷぷぷ」 「なんで知って…ってかわざとらしく笑うな」 「だってー、こんなの笑うしかないじゃん!普段、無表情クールで、ちょっと常識抜け落ちてる感は否めないけど…何でもそつなくこなせちゃうじゃん?そんなレイ君が敬語が使えなくて苦戦してたなんて…笑うしかないでしょー!」 シズは過剰に笑う。何がそんなに面白いんだ。こっちは本気で苦戦していたというのに。 「ふはははははははっ!」 シズはまだ腹を抱えて転げ回っている。 「…うるさい」 「ごめんって」 シズは硬直した。軽く睨んだだけなんだが。日本に来て目つきが良くなった筈なんだが。まぁいいか。 「夜ごはん作る。どいて」 玄関に転がるシズに、手でシッシッというジェスチャーをする。 「私の家なんですけど!?」 「早く」 「…何作るの?」 シズはしつこく、そこを動かない。 「シズがそこをどいてからだな、それは」 「…」 あっさりどいた。なんなんだ。 「…何作るの?」 「…参考までに、何がいい?」 そう尋ねると、唐突にテンションが上がるシズ。 「え!?リクエストあり!?ひゃー!レイ君イイ男ー!!」 「…」 照れてない。けっして照れてなどいない。なんで僕がこんな女に、しかも冗談めかした言葉で照れさせられなければならないんだ。 「え、…照れてる?」 「照れてない」 「え、絶対照れてるよ!だってビミョーに耳赤いもん!」 「黙れ」 「ごめんなさい」 …僕の顔、そんなに怖いのか?? 結局、オムライスを作った。シズのしつこいリクエストによるものである。この料理自体は平和(フリーデン)にもあったが、日本は卵とケチャップの質が良い。卵とケチャップに限らず、日本の食材はどれも非常に質が良く感じる。 「えーもうすんごい美味しいんだけどー♡」 「…良かった」 「照れてるねー?」 「黙って食べろ」 「はいはーい。んー♡おいしー♡」 美味しいものを食べているときのシズの顔は割と可愛い。モテるのだろうか。色恋沙汰には詳しくないからよく分らないな。 「シズはモテるのか?」 分からないから、聞いてみることにした。 「…えっ?」 シズは口にしていたオムライスをごくっと飲み込み、素っ頓狂な声を出した。 …何かマズかっただろうか…? …モテる、という言葉は日本には無いのか…? 「あ、えっと、モテるというのは…」 「…何で?」 「え?」 「え、だって、突然……普通、聞かなくない?っていうかびっくりしたんだけど。レイ君もモテるって言葉使うんだぁ」 『モテる』という言葉を使ったことに対して、驚いている、のか…? 「…特殊な言葉なのか?」 「あぁいや、そういう訳じゃなくて…」 「で、結局モテるのか?どうなんだ??」 「な、何でよ突然!!…も、モテるわけじゃないと思うけど、何回かなら告白されたこと…って、何真剣に答えてんの私!?」 「モテるのか。すごいな」 思ったことを率直に口にした。告白される、他人から恋愛的な好意を抱かれる、ということは、中々ないことだろう。 「リアクションうっす!?何その反応!?何で突然こんなこと聞いてきたの!」 「悪い、気になったから。プライベートなものだったのか?」 「ぷ、プライベートなもの、かなぁ…?まぁ、そう、か…。と、とにかく!突然聞くものじゃないよ!」 「そうなのか。分かった、気をつける」 「そうした方が賢明だねぇ…っていうか、どーせレイ君なんかモッテモテでしょ?マウントでも取りたかったのー?」 予想していなかった言葉が飛んでくる。 「…どうして?どういうことだ?」 「…え?」 「ん?」 「あ、いや、何でも。え、だって…レイ君、普通にカッコいいし…」 「…そうか?」 顔が変わった衝撃で、鏡を食い入るように見ていたことはあるが、別にそこまで端麗だとは思わなかった。 「どこがだ?」 「えっ………と、目、大きくて可愛いし…鼻高いし…顔小さいし…」 「目が大きくて可愛い?何言ってんだ?僕は男だが。女性からすれば、男はカッコいい方が良いんじゃないのか?」 疑問をそのまま口すると。 「〜〜〜〜っ!も、もうこの話終わり!ごちそうさま!!」 シズは顔を赤くして、食器を流しに置くと、自分の部屋に去ってしまった。 「何なんだ…?」 結局、今日は口を聞いてくれなかった。 僕も結局、何故口を聞いてくれなくなったのか分からず、床に就く準備をしながら呻く。 …明日も口を聞いてくれなかったら、どうしよう。 …ん?なんで僕はそんなこと考えてるんだ…? 僕は魔王だぞ!?こんな女に気持ちを弄ばれるなんて…どうしてだ!?不思議、不思議である。やはりシズは魔法が…!? 「おかしいな…僕」 考えるのは止めにし、床に就く。 それにしても、ラーメン屋のあの三人組については、少し探る必要がありそうだ。杞憂かもしれないが、調べておくに越したことは無い。しかし接触はなるべく避けたいな…ボロが出てしまうと困る。勇者御一行じゃなかったとしても、無駄に目立ってしまう。勇者だとしたら尚更、目をつけられると大変だ。勇者らも、僕が日本に転生してきているかもしれないことくらい考えつくだろう。かなり恨まれているだろうから、血眼になって捜索しているかもしれない。だからこそ、接触は避けたい。 「どうするか…」 ノブオは話好きのようで、今日の昼はあの三人についてペラペラ話してくれた。ひとまずはノブオを経由して情報収集をするのが吉か。 今後の大体の方針が決まったところで、僕は瞼を降ろし、眠りについた。
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