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「クロ、〝待て〟!」
その時だ。車の走る音に混じって聞き覚えのある声が響いた。声のする方を見ると、彼女がこっちをじっと見ている。心配そうなその顔は、吾輩に向けたものだろう。
彼女は危なっかしい足取りでこちらへ駆け寄ってくると、吾輩を抱え上げた。
「やっぱりクロだ。どうしてこんなところにいるの?」
「にゃ」
彼女は泣きそうな顔をしているので、吾輩は一声鳴いた。
「ネットに動画が上がってて、まさかと思ったけど、見に来てよかったよ」
そう言うと、彼女は吾輩の体を締め付けんばかりに抱きしめた。少々苦しいが、悪い気はしない。
「わたし、新しいお家に引っ越したのよ。一緒に帰ろうね」
「にゃん」
久しぶりに嗅いだ彼女の匂いはやはり心地よく、ここまで歩いた疲れもあって、吾輩はそのまま眠ってしまった。
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