猫のお引越し

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 公園の隅の木陰には彼女が用意した寝床がある。〝だんぼーる〟とかいうもので作られた箱は、至極温かく寝心地も悪くない。中には〝もうふ〟という布が入っていて、彼女の匂いが染み付いている。おそらく、彼女が使っていたお古なのだろう。これがふわふわして気持ちいいのだ。  寝床で丸くなっていると、たまに彼女が公園にやってきて、ベンチに座る。 「クロ、今日も持ってきたよ」  彼女は嬉しそうな顔をして、手に持った道具を吾輩の鼻先に近づける。吾輩の艷やかな柔毛を整えるその道具は〝ぶらし〟というらしい。気に入っているのを知られるのは少し癪だが、尻尾が反応して天に向かって伸びてしまう。  彼女の膝の上に乗ると、ふわふわしていて座り心地は悪くない。〝ぶらし〟でひと撫でされるごとに、なんとも言えない快感が全身を走る。彼女は首周りばかりを撫でる癖があるが、吾輩としては背中もやってもらいたい。身体を横にして催促すると、彼女は笑いながら道具を動かす。 「はいはい、ここがいいのね」  これをやられると、しばらく身体が軽くなり、痒みに悩まされることも無くなる。何より体を擦る感覚が、母上に毛繕いをされているようで心地よいのだ。
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