猫のお引越し

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 鉄の車を眺めているうちに、吾輩は気付いた。兄弟の反応が消えたのはこの場所だ。多分あいつはこの先に渡ろうとして車にはねられたのだ。あいつは興味本位で先に進み、身を守ることを怠ったのだろう。今となってはもう何年も前のこと。もちろんここにはもう、あいつの体はない。空を見上げると、どんよりした雲が広がっている。  命を失うと等しく天に帰る。あの雲の向こうにあいつはいるのだ。その最期を想像して、少し寂しい気持ちになる。  吾輩たちが同じ場所から動かないのは、何より安全のためだ。無用な争いを避けるための縄張りと、不可侵条約。たまにそれを無視する愚か者がいるというだけだ。  こんな危険を犯しても先に進んだあいつは、誰よりも好奇心が強かったということだ。それもまた生き方なのかも知れない。
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