猫のお引越し

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 さて、吾輩の目的地もこの先にある。しかしここを超えるには触れたら天に召される暴走車たちの合間を縫っていかなければならない。多少の危険は伴うが、吾輩の敏捷性を持ってすればわけもないことだ。  車は真ん中の植え込みを挟んで手前側に三列、向こう側の三列に並んで、それぞれ逆方向に進んでいる。最初の関門は植え込みまで抜けることからだ。  とはいえ、やつらはそれなりの速度で走っている。気をつけるべきなのは、たまに混じる暴走気味の車だ。あんなに急いでどこに行くのかは知らないが、当たればタダでは済まない。  車の列はなかなか途切れず、渡る隙がない。数十の車を見送った後、やっと車と車の間が空いている箇所を見つけ、吾輩は地を蹴った。一列二列と進んだところで、真横から車輪が迫ってきた。間一髪でかわしたものの、あと少しで尻尾を踏まれるところだ。二つの車輪にまたがった人間が遠ざかっていく。ここには〝じどうしゃ〟以外にも暴走しているものがいるらしい。  植え込みにはたどり着いたものの、道のりはまだ半分。ここまで来た以上、進むも戻るも同じこと。吾輩は覚悟を決めて流れ行く車を見つめた。
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