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プロローグ
真夏の炎天下、うるさい程に、蝉の鳴き声が響き渡る公園の一角で、ゆっくりと何かを模写して動く一人の男がいた‥。
顔には表情などなく、白塗りにした顔には、数本の汗が流れたあとが、うっすらと白塗りのペイントを薄くしていた。
ゆっくりと動く、その手は、1秒に一回、60分の1動き、一分で一周する。
男は、毎日、午後0時から、1時間だけ自分を時計に見立てたパフォーマンスを、一年以上も、この公園の片隅で続けている
「おじちゃん、とけいさんなの?」
まだ、お母さんの手に引かれて歩いている子供が、男に話しかける。
「‥‥‥。」
しかし、男は無表情に、一点を見つめる。
それを見た、子供の母親は、男から、子供を遠ざけるように、その手を強引に引っ張り、その場から去っていった。
(やれやれ‥)
男は、ため息を我慢しながら、心の中で、そう呟く。
やがて、公園のベンチや、噴水の周りから人が消えて、午後1時を知らせるチャイムがなる‥。
その瞬間、男の手は、時を刻む事を辞め、その動作を人間の動きに戻していく。
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