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(彼は、内戦地で死亡したという事ですか?)
声は、女性に問いかける。
「私と彼は、結婚の話まで出ていました。彼が帰って来たら、お互いの親と顔合わせをして婚約する予定でした。でも、彼は帰って来なかた。まだ、両親に紹介もしてもらってなかったから、現地に行く事も、彼の最後の姿を見る事も叶わなかった‥。日本に帰ってきた彼は、骨になって帰ってきたのだから。」
女は、目線を下に向けながら、うつむいた状態で話を続ける。
「彼の実家に行った時には、写真の中で微笑む彼にしか会えなかった。彼の一番近くにいながら、ただの友人の一人としてしか扱われない‥彼と過ごした日々や関係を全て否定された気分だった。」
女は、うつむいていたが、唇を噛み締めている事が、はっきりとわかった。
(そうですか‥あなたには、全てを否定される屈辱の時間だったのですね。)
声は、女に寄り添うように、女の気持ちを代弁した。
「そうね。」
女は素っ気ない返事を返す。
(彼との事はわかりました。あなたは、彼を思うというよりも憎んでいるのですね。)
声は、女の意思を確認する様に聞いた。
「憎んでいるか‥ただ、何で、私を置いていったのかを聞いてみたいだけ。」
女は、彼を憎んでいる事は否定した。
(聞きたいですか‥。目の前の自分でなく、紛争地に住む子供たちの未来を選択した事を。)
声は、一つ、一つ、言葉を選びながら、女に質問を投げかけた。
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