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女は、まだ気づいていない‥
セピア色の空が、少しずつ、黒色に侵食され始めている事に‥。
「聞きたいに決まってるでしょ。あの人は、何も残さないで、私の前からいなくなったんだから。」
女は語気を強めて、そう言った。
(何も言わずにですか‥)
声は、ため息混じりにつぶやくように言った。
「そうでしょ!残された人間の気持ちなんて、残した人間にはわからない!」
女は、叫ぶように言った。
(お前‥いや、あなたは‥お前‥)
何かを言いかけた声に異変が見え始めている。明らかに、言葉が支離滅裂になっていた。
「何?」
女も、その異変に気づき始めていた。
(失礼しました。少し頭痛に襲われてしまいました。さぁ〜あなたの話をしましょう。)
声は、冷静さを取り戻して、女にそう言った。
「もう、いいわ。私は、これから死ぬの!もう開放して!」
明らかに女の態度が変化した。
次の瞬間、セピア色の空は、真暗になり、辺りは黒一色に染った。
「えっ‥」
女に動揺が見える.
真っ暗な中でもわかるほどのノイズが、辺りに見え始める。
不安の中、女は手探りで辺りを確認する。
「これから死ぬ人間が、何を動揺して、怖がっているんだ?つくづく、ブレブレで中途半端な奴」
真後ろから、女に向かって、辛辣な言葉が投げかけられる。
女は手探りで、後ろを振り返る‥が、何も見えてはいない。
「いや‥」
女は、辺りに向かって、警戒しながら、その場に座り込んだ。
辺りが、少しずつ見え始めてきた。
「ようやく見え始めたか?」
声のする方へ、女がゆっくりと視線を向けると、人らしい気配が感じ取れた。
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