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セピア色の世界に響き渡る声、それは、女にとっての救いの声になると、女は信じてしまっていた。
(あなたの話をしましょう‥)
声のトーンは、一切変わらず、冷酷にも感じる声にも、女は、静かに頷いて、ゆっくりと話し出す。
「私は、今日を最後の日にします。」
女は、寂しそうな、それでいて、自分に満足をしたような表情で、そう呟いた。
(最後の日ですか‥あなたには、残される人は、一人もいないのですか?)
女の自殺をほのめかすような発言にも、声は、動揺の一つも見せることなく、聞き返した。
「旦那と、子供が一人」
女の悲しそうな部分は、この二人に対してなのだろう。少しの躊躇を見せた後、残りの酎ハイを飲み干してから、そう答えた。
(二人を残してまで、行きたい場所があるんですね。)
声は、理解したように、女の発言に同調する。
(はい‥)
女も、声の同調に心を許し、そっと返事を返す。
「私は、ある人を裏切った‥彼は私を置いて、あっちの世界に行った。私は、あの時に後を追えば良かったのに、生きてしまって、彼とは作れなかったものを、他の人と作ってしまった。」
女の目から、静かに一筋の涙がこぼれ落ちた。
「それも、今日で終わり‥」
女は、涙を拭うことなく、そう続けた。
女は、自分よりも先に死んだ彼に対して、そこに行く事が贖罪になると考えているのだろうか?満足げに見えた部分は、彼の元に行こうとした自分に対してのものだったのだろう。
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