事後物件

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「悪いとこ? いえ、いたって健康ですけど……」 「変ね……あそこに住んでた人は全員命を落とすか、そうでなくてもなんかどうか体を壊すって聞いたんだけど……」  矢継ぎ早に尋ねられ、訝りながらも淡々と僕はそれに答えるが、すると奥さんの方もまた僕の反応を後追いするかのようにして、不思議そうに小首を傾げながら頬に手を添えてそう呟いた。 「い、命を落とす? ……え、もしかしてあのアパートって、なんか有害物質が建材に含まれてるとかですか? それとも、近くの工場で出してる有毒ガスが風向きによって流れてくるとか?」  あの古さや立地からすると、そういったリスクもさもありなんだ……その呟きに目を見開き、そんな現実的な心配をして訊き返す僕だったが。 「いや、そうじゃなくてね。出る(・・)のよ、あのアパート。いわゆる事故物件ってやつ? そっち界隈じゃ有名よ?」  奥さんは首を横に振ると、また違った種類での問題を無駄に声をひそめてその口にする。 「出るって、つまり、幽霊ってことですか?」 「ええ、そう。それも強力なやつが何体も。あまりに怨霊が多すぎて集合体化しちゃってるって話も聞くわね」  俺は霊感ゼロなのでまったく気づいていなかったのだが、奥さんから聞いた話によると、どうやらあのアパートはけっこう有名ないわく付き(・・・・・)の物件であったらしい……。  じつは奥さん、相当なオカルトマニアだったみたいで、長々と脱線も交えながら熱く語ってくれた話をわかりやすく要約するとだいたいこんな感じだ。  まず、最初にも口にしてたよううに、あのアパートは〝事故物件〟であり、それもいわゆる心理的瑕疵(かし)というものがあるなんてもんじゃないくらい、ありまくっていた。  老人の孤独死にはじまり、首吊り、練炭、リストカット…と自死も含めて人死(ひとじに)のオンパレード。中には殺人事件みたいなものなんかまでチラホラあったようだ。  俺はそういうのあまり気にしていなかったのだが、奥さんのスマホで某事故物件検索サイトを見せてもらったら、そこのアパートの位置にはしっかりと炎マークが燃え上がっており、そうした事故内容が幾つもつらつらと書き込まれていた。
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