事後物件

4/4
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「御守り?」 「ええ。御札はないですけど御守りならいっぱい家にあるんです。全国津々浦々、各地の神社仏閣で買ったものが」  そうなのだ。こっちに越してきた今もなのだが、うちには御守りがごろごろと転がっているのである。  俺は旅行をけっこうな趣味にしていて、旅先の有名な神社やお寺などにも必ず立ち寄るようにしているのだが、旅の記念というかなんというか、そこで御守りを買い求めるのも恒例となっているのだ。  ま、そんなこんなで御守りがどんどんと溜まってゆき、そこらに放置しておくのもバチが当たりそうなので、神棚ってわけでもないが決まった場所に掛けて置いていたのである。  もしかしたら、その大量の御守りが一種の結界のようなものを作り出し、それが俺を守っていてくれてたのかもしれない……。 「なるほどね。確かにそれはありえるわね……それに、神社やお寺を参拝するだけでもお祓いになるっていうし、あなた、旅行の度にセルフお祓いしていたのかもしれないわ」  俺がその可能性を説明すると、オカルト通の奥さんもうんうんと頷いて、さらにその仮説を補完してくれる。  なにはともあれ、こうして無事でいられたからよかったものの、まさか前に住んでいたアパートが、そんな超激ヤバ特級事故物件だったなんて……。  それを踏まえて今思い返してみると、もしかして隣室の騒音がうるさかったのも、じつは生きた人間の立ててる音じゃなかったのかも……そういえば、左右両隣の部屋の人とは一度も顔合わせたことなかったような……。  嫌な想像をしてしまい、今さらながらにも全身の血がさあ…と引いてゆくのを感じる。  霊感ゼロとはいえ、ぜんぜん何も気づいてなかったというのはなんとも間抜けな話ではあるのだが……まったくもって「知らぬが仏…」というやつである。               (事後物件 了)
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!