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──許してほしい。君は「何を」と問うことはしないだろう。きっと胸の奥深くに私の罪は眠っているはずだから、根ざしたそれを根こそぎ浚う驟雨が降らない限り君は尋ねることをしない。「何を」「どうして」と問うことはしないだろう。
許してほしい。人の知恵を司る赤い実、それを食べる権利を奪った私を許してほしい。唆す蛇は私のつがえた矢でその生を散らし地に還っている。甘言をのたまうはずだった舌は引き抜かれている。
ああ、なんと哀れなことか。
許してほしい。許してほしい。
私は毎夜敬虔に祈りを捧げる。「無垢であれ」「永劫に濁らず曇らず清くあれ」と。罪を洗い清めるために、私は赤い実を残らずもぎ取った。目に触れるすべてを清く、清く、清く。ひたすらに真白くあれと祈りを捧げる。
無垢な君は私に言った。
「世界は綺麗だね。昼も、夜も、朝も」
私は言った。真綿で首を絞められる心地がした。
「この世界は愛に溢れている」
「この世界を愛で埋め尽くそう」
私は言った。
「優しくあたたかいもので、ずっと」
「満たしていこう」
「満たしていこう」
「完成された世界をともに歌おう」
「ここは完成されている」
「綺麗な世界で共に過ごそう」
「ずっと、ずっと」
「終わらない歌を歌おう」
──閉じた箱庭のなか知恵の実を奪われた少女と心の壊れた少年は寄り添って笑い合う。薄皮一枚剥いでしまえばそこには白いばかりではない世界が広がっていると知りながら、終わらない歌を歌い続ける。
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