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(すだれ)を上げたので外を覗いてみてください。外の空気を吸えば少しは良くなるでしょう」  外から心地よい風が吹く。  紫亭は窓から顔を出す。  のどかな田舎の風景が一面に広がっていた。  (せわ)しなく手を動かし、稲を植える農民。  その横で無邪気に(たわむ)れている子ども達。  全ての光景が紫亭には懐かしく思えた。  ふと子ども達の内の一人が馬車に気付く。  大声で皆に知らせ、子ども達は遊ぶのをやめて、珍しそうに馬車を見つめた。  中には紫亭に向かって手を振る子もいた。  紫亭は戸惑いながら手を振り返す。  そして隣にいる遡北に、 「随分とに対して友好的になったわね」  とこぼした。  紫亭の記憶の中の役人は決していいものではなかったからだ。  つい八年前まで王朝は乱れており、紫亭や遡北にとって役人は暴虐の限りを尽くす者、馬車でやってきては食料、女をかっさらっていった。  馬車が来るというのはまた何かを失ってしまう事を意味していた。  子供が馬車にいる人に手を振る、紫亭にとっては何とも奇妙なものに思えたのだ。  馬車に乗ると言われた時は石を投げられる覚悟すらしていたのが馬鹿らしい。  遡北は苦笑する。 「この八年間、主上(しゅじょう)とともに国を変えるべく、身も心も捧げたのもまたですよ」 「分かってる。けど……」  許せなかった。  目の前で連れて行かれた姉達、食料不足によって命を落とした兄弟達の姿を思い出すと、紫亭はやはり役人達のあの憎らしい顔を忘れることができなかった。 「紫亭様は遡北が嫌いなのですか?」 「そんな事ない!!」  紫亭が遡北を嫌いになったことは一度もなかった。  だから誤解のないよう全力で否定した。 「遡北もですよ」  遡北は笑いを含んだ声でいう。  からかわれたのだ。 「遡北!!」  紫亭は真っ赤になって遡北の肩を何度も叩く。  そんな中、馬車はゆっくりと二人の生まれ育った村の前に到着した。
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