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村の前には村長及び数人の子供が立っていた。
見知った顔ではないのが紫亭にとって残念だったが、それよりも喜びの方が大きかった。
遡北と村長は軽く言葉を交わして、そのまま二人は村に通される。
「戻ってきたのは何年ぶりかしら」
変わらない景色を眺めながら紫亭は懐かしむ様に呟いた。
「ここ数年、いろんな村を回ってたのでしたっけ?」
「うん。始めは隣の村の患者をみてほしいって頼まれて、そこに行ったらまたその隣の村に行かされて……どんどん故郷から遠ざかっていったわ」
くすりと遡北は笑う。
「気が付いたら妹達はみんな嫁いでいって、弟達も家庭を築いて幸せそうに暮らしていたの。父さんも亡くなったから戻る理由がなくなったなぁって思って彷徨い歩いたわけだけど、今日ここに戻って初めて気が付いたわ。実はすごく恋しかったんだって」
紫亭が父さんと呼ぶ人は孤児院の院長だ。
紫亭のみならず、遡北もその他の兄弟達も父さんと呼んでいた。
「……分かります」
遡北も珍しくしんみりとしていた。
二人は父の、そして亡くなった兄弟達の墓参りをしてから孤児院に向かった。
「ここも、随分と人が少なくなったわね。いい事だけれど」
孤児院の子供が少ないのはいい事なのだ。
貧困で親に育てられなくなってしまった子ども、親を失ってしまった子ども達が減っている事を意味するから。
見ない顔だと思ったからか子ども達はすぐに紫亭と遡北に寄って集る。
紫亭は子供達にお菓子を配りながら、この子達の未来は明るいものになりますようにと、そっと願った。
「ちょっと、食事前に子ども達にお菓子あげないでよ」
懐かしい声が聞こえて遡北と紫亭は揃って声のする方に視線を向ける。
艶やか黒髪を一つに纏めた、色白な美しい女がそこに立っていた。
「洛惜姉さん!!」
紫亭は何のためらいもなく姉の洛惜に飛びつく。
「相変わらずお前は騒がしいねえ」
嫌そうな顔をしつつも洛惜の口元は上がっており、喜びを隠せずにいた。
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