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「姉さん、ご存命で何よりです」
遡北も挨拶する。
「お前は相変わらず口が減らないな。あたしに死んで欲しかったのかい?」
呆れながら洛惜は返す。
遡北に対しては心底嫌そうだ。
「いえ、決してそのような事は」
意地悪い笑みを浮かべる顔は、言葉の確かさが如何なるものかを語っていた。
はあと紫亭は大きくため息をつく。
遡北も洛惜もいい人であるのには間違いはない。
ただ昔から気が合わないのだ。
「それにしても、姉さんはどうしてここに?」
二人の会話を遮るべく、紫亭は話題を変えた。
紫亭より八つ上の洛惜は、紫亭が六つの時に王宮に連れて行かれた姉達の内の一人だった。
攫われたら本来役人の妾にされて戻って来れないはずである。
実際姉達が攫われて以来、紫亭は一度もその姉達にあった事がなかった。
「いやー、王宮に連れて行かれた時はもう終わりだと思ったけど、運良くいい人に拾って貰えてな。その人があたしを娶ってくれたおかげで、王宮の争いに巻き込まれずに済んだし、居場所も出来た。ただ、残念な事にその人が先月亡くなってな。行く宛なかったし、ちょうどこの孤児院もまともな管理者がいないっていうから、あたしが管理者になってあげたのさ」
「孤児院存亡の危機ですね」
「あーら遡北。だーれがお前のおむつを替えてやったと思ってんだい?」
洛惜と遡北の間に再び火花が散る。
紫亭は頭を抱えた。
何年経ってもこの二人は変わっていない事に気が付いたからだ。
もちろん悪い意味で。
自分と遡北の関係も変わらなければどれほど良かったか……
「姉さんは再婚しないのですか?」
遡北の言葉に洛惜は呆れて首を横に振る。
「しないしない。みんな十二、十三の若い娘を嫁にするのだ。あたしはもう婚期が過ぎたの。貰ってくれる男はいないよ」
「そんな事はないと思うけれど……」
この国では早く婚姻を結ぶ人は多いが、六十で結婚も珍しくはない。
洛惜はまだ二十二。
諦めるのはまだ早いのではないかと紫亭は思った。
だが洛惜の気持ちも分からなくはない。
貰ってくれる人がいない、というのは恐らく口実で、洛惜の心には新しい人を入れる余裕がもうないというのが本音の様に紫亭は思えた。
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