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4
「あたしの事はもういいでしょ?遡北、お前こそどうなんだ?嫁いでくれる女はいるのかい?」
洛惜の表情は、まるで遡北を好きになってくれる女はいないと確信している様だ。
紫亭は項垂れる。
こればかりは洛惜の味方をしていられない。
そしてそっと手を挙げた。
「私」
「ん?」
「私なの。その、遡北に嫁ぐ人が」
洛惜の目は文字通りに点となる。
遡北はそっと紫亭を抱き寄せた。
「そういう事です」
気のせいか遡北は誇らしげに微笑む。
少なくとも紫亭にはそう見えたのだ。
「待ちな。どういう事かあたしにはさっぱり分からないが……」
「そのままの意味ですよ。あと一月もしない内に結婚します」
洛惜は黙り込んだ。
紫亭はそっと姉の表情を窺う。
長年離れ離れになっていたとはいえ、大切な家族である。
ここで婚姻を否定されてはやはり傷つくのだ。
だが思いの他、洛惜は落ち着いていた。
少し考えたのち、徐に口を開く。
「紫亭、こいつに脅されていないな?」
紫亭は小さく頷く。
「なら、いい」
洛惜はそっぽ向いて短く言った。
「お前を遡北みたいな奴にやるのは考えただけで嫌気がさすが、それでお前が幸せなら姉として祝福するだけさ。式はいつだい?仕方なく参加してあげるよ」
紫亭はにこにこしながら洛惜の話を聞く。
口は悪いが、根は優しい。
紫亭はそんな姉が大好きだ。
そして、姉だけを式に呼ぼうと心に決めた。
遡北に子供たちの世話を任せ、二人は昔話に花を咲かせた。
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