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「あたしの事はもういいでしょ?遡北、お前こそどうなんだ?嫁いでくれる女はいるのかい?」  洛惜の表情は、まるで遡北を好きになってくれる女はいないと確信している様だ。  紫亭は項垂れる。  こればかりは洛惜の味方をしていられない。  そしてそっと手を挙げた。 「私」 「ん?」 「私なの。その、遡北に嫁ぐ人が」  洛惜の目は文字通りに点となる。  遡北はそっと紫亭を抱き寄せた。 「そういう事です」  気のせいか遡北は誇らしげに微笑む。  少なくとも紫亭にはそう見えたのだ。 「待ちな。どういう事かあたしにはさっぱり分からないが……」 「そのままの意味ですよ。あと一月(ひとつき)もしない内に結婚します」  洛惜は黙り込んだ。  紫亭はそっと姉の表情を(うかが)う。  長年離れ離れになっていたとはいえ、大切な家族である。  ここで婚姻を否定されてはやはり傷つくのだ。  だが思いの他、洛惜は落ち着いていた。  少し考えたのち、(おもむろ)に口を開く。 「紫亭、こいつに脅されていないな?」  紫亭は小さく頷く。 「なら、いい」  洛惜はそっぽ向いて短く言った。 「お前を遡北みたいな奴にやるのは考えただけで嫌気がさすが、それでお前が幸せなら姉として祝福するだけさ。式はいつだい?仕方なく参加してあげるよ」  紫亭はにこにこしながら洛惜の話を聞く。  口は悪いが、根は優しい。  紫亭はそんな姉が大好きだ。  そして、姉だけを式に呼ぼうと心に決めた。  遡北に子供たちの世話を任せ、二人は昔話に花を咲かせた。
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