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「姉さん、変わらなくて良かった」
その日の夜、紫亭は用意してもらった部屋の寝台に座り、横で書物を開いている遡北に話しかけた。
「そうですね」
遡北はそっと書物を閉じ、微笑んで頷く。
紫亭は邪魔したなと、申し訳なさを感じつつ、続けて遡北に話しかけた。
どうしても聞きたいことがあったからだ。
「あのさ、遡北」
「何でしょう?」
何でしょう、ではないと思うけどと紫亭はため息をつきそうになるのを我慢して気になる事を遡北にぶつけた。
「どうして、姉さんが私に準備した部屋に、遡北がいるのかしら?」
紫亭が軽く水浴びした後、今夜どこで寝れば良いのかを洛惜に聞いた。
洛惜はこの部屋を告げたのだが、中に入ると遡北もいた事に気付く。
あろう事か、何の変わりもなくいつもの様に接してくる遡北に、紫亭は自分がおかしいのではないかという感覚に陥る。
「ひょっとして私、部屋を間違えたの?」
「間違えていないと思いますよ?」
「じゃあ遡北が部屋を間違えたの?」
「いいえ」
紫亭は混乱して、黙りこくる。
それを見て遡北は軽く笑った。
「この部屋以外どこも空いていないんですよ。今夜は二人でこの部屋に泊まれば良い、どうせ夫婦になるから、と姉さんから伝言を頂いております」
紫亭は頭を抱える。
本日二度目だ。
その姿を見て遡北は慌てる。
「もしかして嫌でしたか?嫌でしたら今夜私は歩廊で寝ます」
そういって遡北は寝具を持って外に出て行こうとする。
紫亭は慌てて止めた。
孤児院の各部屋は木材がびっしりと並べられて建てられた部屋で、隙間がない。
だから比較的に暖かい。
それに対して孤児院の台所などに繋がる歩廊は、開放的である。
全く風を遮るものがないといっても過言ではない。
春とはいえど、夜は冷える。
遡北を一晩歩廊で寝かせる訳にはいかなかった。
そう思い、紫亭は恥ずかしさを我慢して遡北をと同じ部屋で一夜を過ごすことにした。
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