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いくら寝ぼけている紫亭でも、この行動を不審に思った。
この時間に出かけるのもそうだが、自分が寝ているかを確認する必要などあったのだろうか。
遡北が出ていってすぐ、紫亭も上着を羽織り外へ出た。
田舎の夜は王宮と違って暗い。
王宮の様にあちらこちらに蝋燭がおいてあるのではなく、自分で灯籠を持たなければ夜道は歩けない。
手を伸ばせしても五本の指が見えないほどの暗さだ。
紫亭は灯籠を持っていなかったが遡北は持っていた。
そのおかげで紫亭は遡北を見失わずに済み、遡北の後について行くことによって道を踏み外すこともなかった。
暫く歩き続けて、遡北は小さな倉庫の様な小屋に辿り着いた。
ぼろぼろの、今にも潰れそうな小屋だ。
周りには雑草が生い茂っており、見るからに人気のないところである。
遡北は躊躇いなく中に入った。
こんなところに何の用がと紫亭は怪訝に思ったが、小屋の形を見てはっとする。
廃れたから気が付かなかったが、ここは紫亭と遡北の学び場だったのだ。
小さい頃に紫亭と遡北はよくここで、兄に色んなことを教えてもらっていた。
紫亭は薬草の知識について、遡北は政について学んだ。
それが今の二人を築く。
だが、その兄はもう遠の昔に亡くなっていた。
飢饉によって。
それ以来紫亭はここに来ていない。
遡北はたまに来るらしい。
ここには兄が生前集めた書物が多く保管されているから。
それでも、何故遡北が紫亭に隠れてここに来たのか、紫亭にはさっぱり分からなかった。
中に入るか入らないかと悩んでいる内に遡北は出てくる。
まずいと思い、紫亭は茂みに隠れたが遡北はそもそも紫亭に気付いてはいなく、数冊の書物を抱えてそそくさと来た道を戻る。
それを見て紫亭は慌てた。
遡北より先に戻らなければ怪しまれる。
だが、灯籠も持たずに出て来た紫亭は遡北の後に続く他、戻る術がなかった。
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