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 ぽとりと何かが落ちる音がした。  遡北が何かを落とした様だが、遡北は気付いていない。  紫亭は遡北についていきながらそっとそれを拾い上げた。  粉らしきものが入っている包みだ。  何かは分からなかったが、取り敢えず紫亭はそれをしまい、どうすれば遡北より先に戻れるかを考える。 「紫亭様」 「え」  どうすればとばかり考えていると、いつの間にか紫亭の前で遡北が仁王立ちしていた。 「こんな夜中に、灯籠も持たずに外に出るとは何事です?」  紫亭の思考はまだ追いついていないのか、言葉に詰まる。 「夜道は危ないです。狼が出てもおかしくないですよ」  実際出た事あった様な……  と紫亭は回想する。 「で、どうして私の尾行をしていたのですか?」 「そ、それは……なんか、遡北の様子が気になって……」  言い訳が見つからずに紫亭はありのままを話す。  遡北はそっとため息をついた。  あ、またため息。  遡北は最近ため息増えたなとのんびりと紫亭は考えていた。 「私はただ眠れないから書物でも読もうと兄さんのところから数冊借りてきたまでです。薬草に関するものですよ」 「へー、遡北が薬草……」  心外そうに紫亭が呟くと、だから貴女にばれたくなかったのですと遡北は苦笑した。 「でも、私は付いていって良かったなって思うの。兄さんが亡くなって以来、一度もそこに行ったことなかったから」  伏せ目になりがちな紫亭を、遡北は複雑そうに見つめた。 「兄さんの事、まだ忘れられないのですか」 「忘れられる筈ないわ。兄さんの死は、私のせいだから」 「いいえ、私の力不足のせいです」
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