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「まあ、そうなるだろうね」
「だから、一緒に逃げませんか?」
「え?」
「宰相を辞めて、この国に関与されない所まで逃げませんか?」
何馬鹿な事言っているのと紫亭は言いかけたが、遡北は真剣だった。
「主君を裏切るの?」
「……」
「私を連れて行くって、ひょっとして私が人質として捉えられてしまうのを防ぐため?」
遡北は頷く。
「じゃあ私は断るわ。二人で逃げれば次に狙われるのはこの孤児院だもの」
紫亭はやっと遡北がなぜ孤児院のことを持ち出したのか分かった。
紫亭の中での孤児院の大きさを知りたかったのだ。
二人で逃げれば孤児院の子ども達が人質に取られる。
その子ども達を捨てる事が出来るか、遡北は紫亭にそう問いかけた。
見捨てるなんて出来ない、それが紫亭の答えだ。
「そうですか……。貴女がそう答えるのは分かっておりましたが」
「何かあったの?遡北が宰相を辞めたいと思う程の出来事が。微力だけど、相談に乗るくらいなら……」
「いいえ、何でもありません。ただ、職に追われない生活もいいと思ったまでです」
遡北は笑うが、紫亭は顔を顰めた。
遡北はそんな理由で宰相を辞めるなどの無責任な事をいう筈ない。
先ほどの真剣な表情も冗談ではない事を語っている。
遡北が今、何を考えているのかまるっきり分からなかった。
孤児院の子ども達にいい生活を送らせる、同じ目標を持っていた筈なのに遡北に裏切られた様に紫亭は感じた。
「流石に眠くなったのでもう寝ますね」
紫亭が問い出すより先に遡北は横になる。
「……うん、お休み」
紫亭も横になったが、全く眠れなかった。
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