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開天斧(かいてんふ)を使える人がこの世界の王か……」  鳥がさえずり蝶の舞う花園で一人の若い娘が暇そうに、木造の亭子(ていし)の下で寝そべっていた。  傍らには読み散らかした書物、その上にはついさっきまで読んでいたであろうこの国の、天籟国(てんらいこく)の歴史書「盤古伝(ばんこでん)」が半開きのまま置かれている。  心地良い春風が眠りを誘う。  誰もいないのをいいことに娘大きな欠伸(あくび)をして、ちょっとここで昼寝でもしようかと考え始める。 「紫亭(してい)様、ここにおられましたか」  目を閉じて間もなく、そう遠くないところで自分の名前が呼ばれるのを聞いて、娘はすぐさま飛び起きた。 「遡北(そほく)!!」 「おはようございます。こんなところでうたた寝していると風邪ひきますよ」  穏やかな口調で娘こと紫亭(してい)に話しかけた青年はこの国の宰相、遡北(そほく)。  (よわい)十二で宮に呼ばれ二年経った今、宰相まで辿り着けたこの男は前途多望だ。  かつ物腰が柔らかく、すっきりとした顔立ちをしており、王宮の多くの女を虜にしたという。 「どうしてここに?」  紫亭(してい)は弾んだ声で遡北に聞く。  紫亭(してい)遡北(そほく)に惚れ込んだ女達の内の一人だった。  ただもし他の女達と少し異なるところがあるとすれば、紫亭は遡北の幼馴染で許嫁(いいなずけ)だというところだろう。  他の誰よりも先に遡北の魅力に気付く事が出来たと紫亭は自負している。 「一月(ひとつき)後の式について相談しに来ました」  式というのは二人の婚式のことである。  この言葉はまた紫亭の心を躍らせた。 「それがどうかしたの?」 「式に呼ぶ相手を決めようと思いまして……」  遡北の声が少し暗くなる。  実は二人とも幼い頃から孤児院で育てられ、一年前に親族と呼べる院長も亡くなっていた。  つまり、式に招くことの出来る親族は存在しないという事だ。  遡北の方はまだ良い。  役職のおかげでいくらでも祝ってくれる人はいる。  問題は紫亭の方だ。  訳があって王宮に呼ばれ、(しばら)くは王宮で暮らしてきた訳なのだが、役職がなければ当然知り合いもいない。  故郷には友と呼べる存在の人はいるがもう疎遠(そえん)になっており、本当に婚式に招くことの出来る人はいないのだ。
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