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「その件についてなら私も考えたわ。私には呼べる人はいないからもう一層のこと誰も呼ばずに二人だけで式を挙げるのも悪くないかなって」  遡北はやや目を見開く。 「それの意味することは分かっていますか?」  紫亭は頷いた。  天籟国で何かを祝う時、可能な限り盛大にするのが良いとされる。  特に婚式。  男にとっては自分の妻となる人を正式に他人に紹介する場となる為、招く人の数によって二人の関係性が世間に知られたいか否かを表す事になる。  つまり、人を招いで式を盛大にするか否かでその女の立場が決められてしまうのだ。  人が多ければ多いほど、その女は大切だということを意味し、一般的に正妻扱いとなる。  側室を迎える場合、正妻ほど盛大な式を挙げないにしろ、それなりの数の人は呼ぶ。  誰も呼ばない場合、それは下女のような身分低い者が主人の子を孕んだ時のみにあげる簡易な式で名誉のあるものではない。  二人だけであげる式、どう考えても一国の宰相の、正妻に対する扱いではなかった。 「私はまったく気にしない。名誉だの何だのは所詮人の口から出たもの。私は遡北と共に過ごせたらそれでいいと思ってるの」 「ですが……」  遡北は何か言いかけたが、紫亭に遮られる。 「それに、今は王宮に身を寄せているけど田舎娘である事には変わりはない。でも、遡北はこの国の公主を妻にする機会があるのかもしれない。そうなれば私が正妻では困るでしょ?だからこれくらいの扱いがちょうどいい」  遡北が他の女を妻に迎え入れる事に対して紫亭が何も感じない訳ではない。  ただ遡北との間に距離がありすぎて、自分にはそれを止める資格がないのだ。  紫亭はそっと心の中で呟く。  数年ぶりに逢った遡北はちゃんと紫亭の事を覚えており、他の人以上気にかけてくれた。  それに対して紫亭は感謝している。  だが、振る舞う笑顔も接し方も昔とまるっきり違っていた。  もう昔のように紫亭と呼んでくれなく、いつでも敬語を使っていて妙によそよそしい。  紫亭はそれを寂しく思った。
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