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 そもそも婚姻も二人で決めた事ではなく、皇帝が決めた事である。  天籟国では男は十四で、女は十二で成人とみなされる。  先月遡北は成人したばかりだ。  これを期に妻を娶らせようとしたのか、はたまた別の理由があるのかは紫亭には分からない。  だが昔から遡北を慕っていた紫亭はこの機会を逃したくはなかった。  それでも遡北はこれについてどう思っているのかを紫亭は考慮せずにはいられない。  その結果、未だによそよそしい態度をとるのはやはりこの婚姻に対して不満があるからだろうという結論に至った。  だから誰を妻に迎え入れてもいいように、自分は正妻の立場を空けておく。  遡北の側にいることができればそれでいいのだ。  紫亭はそう決心した。  遡北が口を開きかけた時、紫亭は激しく咳き込んだ。 「大丈夫ですか!?」  勢い余ってしゃがみ込んでしまった紫亭を遡北は慌てて支える。 「……うん、ちょっとふらっとしただけ」  心配の為か遡北の眉間に皺が寄る。 「こんな所に長居させるべきではありませんでした。申し訳ありません」 「大袈裟(おおげさ)ね。私は大丈夫。王宮という慣れない所に来て少し体調を崩しただけだから心配しなくてもいいよ。その内よくなるって」  紫亭は微笑んで遡北を(なだ)める。 「そうは言っても一月(ひとつき)は続いておりますが?」  うっと紫亭は言葉に詰まる。 「私のあげた薬はちゃんと飲んでいますね?」 「も、勿論」  そこでようやく遡北の眉間の皺がなくなる。 「では引き続きそれを飲んで、しっかり休んで下さいね。一月(ひとつき)後には式が控えているので」 「そうね。その日の為に一日でも早く治るようにしっかり休むわ」  にっこりと紫亭は微笑む。  式の事を考えると口元は上がらずにはいられなかったのだ。   「……」 「遡北?」  いきなり黙り込んでぼうっとした遡北の目の前に手をひらひらさせる。  はっと遡北は我に返った。 「え?!あ、すみません。ぼうっとしていました」 「あら珍しい。考え事?」  照れくさそうに遡北は笑う。 「そうですね。まあ、貴女の笑顔に魅入られたと言った方が正しいのですが」  かっと紫亭の顔は真っ赤になる。  殺傷力があまりにも高すぎたのだ。 「それはそうと、取り敢えず宮中に戻りましょう。もう一度咳き込んでは困るので。式の事はまた明日にでも」 「うん、ありがとう」 「いえ……」  紫亭が歩き始める。  その背後を見て遡北は微かに表情を曇らせた。
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