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天籟国の城は広い。
皇帝が国事を行う為の永和殿を中心として、南北には大通りが一つ、東西には休息用の宮がそれぞれ六つずつ一列に並んで建てられている。
大通りと、東西に横並びの宮殿によって分けられた四箇所の空き地にはおよそ六千もの殿、宮、堂、閣、亭、園がある。
皇帝及び皇后がくつろぐ場所を宮、官吏が公務を行う場所を堂、書物を保管する場所を閣、遊覧の為の場所を亭、園と呼ぶ。
その他にも皇帝の子を孕む為に集められた女達の住む後宮、皇帝の寵愛を受け、貴妃と呼ばれた女達に用意した離宮がいろんな所に建てられている。
この城の外側には官吏達の住む場所が建てられているが、宰相を含めた六卿と呼ばれる六つの重要な官職を担っている官吏は、すぐに皇帝の元へ駆けつけることができるよう、城内に自身の宮を持つ。
紫亭は遡北の宮に身を寄せていた。
つい先月の事である。
王宮に招かれてしばらくは離宮で暮らしていたが、二人の婚姻が決まった事がきっかけでそのまま遡北の宮に移った。
いまだに同じ宮に住むのには慣れない。
と紫亭は思う。
同じ宮でも勿論部屋は異なる。
だが、宮は住む人の柄を反映する。
匂いにしろ、雰囲気にしろ全てが遡北の存在を物語っていた。
遡北がすぐ側にいる様で嬉しいが気持ちが高まるから上手く休めない、というのが紫亭の本音だ。
その為か遡北の宮に移って早々、体調を崩す羽目となった。
紫亭はため息をつく。
「どうかなさいましたか?」
「ん?何でもないけど」
「左様ですか。大きなため息をついたからてっきり何か悩みでもあるのかと」
「いや、悩みなんて……」
紫亭は笑いながら誤魔化す。
悩みが遡北だなんて口が裂けても言えるはずがない。
はあと今度は遡北がため息をついた。
「昔から貴女は何でも一人で背負いたがる。……いつか、潰れかねませんよ」
「うん……」
「もっと私を利用して下さい。頼って下さい。これから貴女の夫となる男ですから」
「遡北……」
遡北の口からこの様な言葉が出てくるのは紫亭にとって心外だった。
だが素直には喜べない。
これは自分の事を気にしているからの言葉なのか、はたまた夫としての役割を果たそうとしているだけの言葉なのか分からないからだ。
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