第一章 「はじまり」

8/18
前へ
/36ページ
次へ
音葉の首に、日本刀が添え当てられていた。 首からは一筋の血が流れ落ちていた。 ジェイドが、もう少し力を入れれば、その首と胴は切り離されるだろう。 「空砲を読んで、一気に懐まで飛び込んできたって訳か‥」 音葉は、絶対絶命の状態においても、その目からは光が消えてはいない。 「面白い‥」 懐を取り、絶対有利の状況だったジェイドの額に、銃口が充てがわれている。 「あの状態からなら、お前を止める事は不可能だからな。ならば、お前がどう動くかを考えたら、おそらくは、空砲を読み切って、懐に飛び込んでくるだろうと‥」 音葉は、ジェイドに言った。 今、首筋に日本刀を添え当てられた状況の男と、額に拳銃を充てがわれている男が、次の一手を打てずに、膠着している。 「首と胴を切り離されてもいいんですね‥」 ジェイドは、音葉を見ながら言う。 「やってみたらどうだ?お互いに勝ちはないぞ。良くて痛み分けだ。お前が動いたら、迷わずに撃つ。それがどんな状態でも!」 音葉の目には、力強く、絶対な意思が見えている。 「なるほど‥大和魂ですか‥自分の命を捨ててでも、私を道連れにする気ですね‥」 ジェイドは、今の状況を喜ぶかの様に言った。 「覚悟は出来ているよ。」   音葉が言う。その表情に迷いはない。 「あなたは、この状況は想定していた‥そして、空砲を撃つ意味があった。救援に場所を知らせるという意味で‥」 ジェイドは、微笑を消すことなく、音葉に言う。 その時、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。 「どうするかな?」 音葉は、ジェイドを見ながら言った。 「まさか、こんなに楽しませてくれる相手が、こんか平和ボケした日本にいるとは‥ここで殺してしまうには惜しい‥」 そう言うと、ジェイドは、音葉の首筋から、ゆっくりと日本刀を離した。  「‥‥?」 思ってもいなかったジェイドの行動に、音葉も、一瞬だけ戸惑いの表情を浮かべる。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加