新たな引越し先

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 同じ高校に通う俺とリコは、近所に住む幼なじみで仲良しだけど、付き合ってるとかいう関係では、まだないのだ。  今日も同じ時間の電車に乗り、自然と一緒になったようにして、駅から一緒に歩いて、近所の公園のブランコで、いつものようにちょっと話をしていたところなのだ。  なんなら、いい感じの雰囲気になれば、今日こそ俺は、リコに告白しよう、告白できたらいいな、リコは俺のことどう思っているんだろう、なんて考えていたところなのだ。  それを何なんだ、意識体って。   通りかかった近所の知り合いにじゃまされるならまだしも、相手があまりに非現実的で壮大すぎる。  俺に入っている意識体とリコに入った意識体が、ずーっと長いあいだ愛し合ってきたっていうのはよくわかったよ。このまま受け入れれば、俺やリコの思いとは関係なく、二人は結ばれるのかもしれない。そのほうが俺にとってもいいのかもしれない。  けど、俺はリコが好きだけど、リコは俺をただの幼なじみとしか思ってなかったらどうするんだ。それとも、リコも俺のことを思ってくれているって意識体のやつがわかったから、俺たち二人に入りこんだのか?  ああ、よくわからない! とにかく、なんかイヤだ。  一番イヤなのは、今さっき話したリコが、リコじゃなかったことだ。俺が好きなのは、幼なじみの、よく知っているリコなんだ。融合してリコが残っていたとしても、なんかイヤだ。 「わかったわかった。君たちはあきらめて、別の引越し先を探すよ。じゃまして悪かった」  と、俺が言った。いや、俺じゃなく、俺に入っている意識体がそう言わせた。 「ふふ……。わかったわ。わたしも出ていく。残念だけど」  と、リコが言った。いや、リコじゃなく、リコに入りこんでいる意識体がそう言わせたのだろう。  一瞬の眩しさを感じたと思ったら、薄暗い公園で、俺とリコはただブランコに乗っていた。 「あれ? 今、何か変なことあったよね。何だったかしら。ぜんぜん思い出せない」と、リコが言った。  さっきまで俺の意識を支配しかけていたものがいなくなり、すべて妄想だったように感じはじめていた。そして、記憶がどんどん遠ざかる。接触したことを覚えていられないような仕組みになっているのか。リコはもう忘れてしまったようだ。俺も、もう忘れそうだ。  意識体? 何のことだろう。俺に何があったんだっけ? 俺の中に、相手を強く愛するような何かがあったような……。  愛する……好きだ……ずっと、ずっと一緒……。そんな感情が……。 「え? 何か言った?」 「え? 俺、何か言った?」 「うん。よく聞こえなかったけど」 「ああ、たぶんこう言った。リコ、好きだ。ずっと、ずーっと一緒にいたいって……」  〈了〉
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