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「一方的に言って切りやがった」
溜息一つ零して、ベッドから起き上がる。目が覚めてしまったのは確かだ。
「……とりあえず、ゴミ片すか」
ベッドから降りて歩けば、足の裏には埃のざらつきを感じる。
よくもまあ、こんな部屋で寝泊まりしているもんだ。
他人事のようにぼやきつつ、いつ買ったのかもわからない大きなゴミ袋を引っ張り出す。広めのクローゼットがあるだけの1Kの部屋。そこに散らばったコンビニ飯の残骸を、ゴミ袋の中へ押し込んで押し潰して口を縛る。
「臭い」
食事の跡を洗いもせずに放置していたのだから当然か。気づいてしかるべきことを、気にも留めずに過ごしていた事実に苦い思いが浮かぶ。
だが沸き上がる気持ちすらも億劫だ。
大きくなった袋を二つ積み上げて、玄関に転がした。
その隣に立てかけてあった物が目に入り、用意していた物を思い出す。
「退職届を出した後で買ったんだっけか」
折りたたまれた新品の段ボール箱が三つ。先の電話で苦し紛れに言った三箱の由来に思い至った。あの日は異常なテンションで散財した気がする。大抵は後に残らない物に使ったはずだが、その中で家に持ち帰ってきた物が段ボール。あの瞬間の心境も分からなくはないが、だからと言って雑な買い物に過ぎた。
「荷物詰めたら、あとは事務手続き周りとかだよな」
大して役に立たない確認を口に出す。昔より独り言が増えた。そのことに気づき、また気分が下がる。
「いつからだっけな」
考えようともせずに言葉だけ吐き出して、段ボール箱をひとつ組み立てる。
「しまうのは使わないものからが良いんだっけか」
引っ越し作業のまとめサイトに書いてあった気がする。動いてなかっただけで情報収集はしていたのだ。動いていないだけで。
そうなると、と目を向けるのは奥行きのあるクローゼットの扉だ。
最後に開けたのはいつだったか。ここ一年は間違いなく触れていない。趣味の物は殆どをここに突っ込んでいた。
「触ってない以上、ここが地獄の惨状ということはないはず」
仕舞い込まれているのは漫画、小説、CD、アナログゲーム。趣味のモノが整然と並ぶこの場所は、この家の中で唯一まともなままだ。粗方捨ててしまっても構わないと思っていたが、見渡せば捨てられないものがいくつもある。二人で遊べるものが多いアナログゲームなどは最たるものだと考えていた所で、違和感が猛烈な主張をしていることに気づく。
「何だ、これ」
大小さまざまなボードゲーム、カードゲームが並ぶ棚の前、床に鎮座していたそれを手に取ってみる。
ティッシュ箱より二回りくらい大きいサイズ。
両手で持ち上げてしげしげと眺めてみる。
重いということはなかった。
これはどこからどう見ても--。
「宝箱だ」
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