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宝箱。海賊の財を蓄えてそうな、悪質なトラップが仕組まれてそうな、ファンタジーで輝かしい宝の匂いがする宝箱。
両手で抱えた感触から、財貨がぎっしりという訳ではないのは分かる。軽く振ってみると、中で何かが動く感触が返ってきた。無軌道に動く訳ではなく、スライドする感じ。宝箱のサイズに合った物が入っているはずだ。
「無理に開けると中身壊すかもか。なら開け方は--」
目を向けるのは宝箱の口を閉ざす錠前だ。開ける手順が明確に示されている。
そうであればと周囲を見回しても、鍵らしきものは見当たらない。
どうしたものかと手元の宝箱を持ち替えながら考えていると、底を撫でた手に引っかかるものを感じた。ひっくり返してみれば、セロハンテープで鍵が張り付けてある。
「これか」
クローゼットから離れて、ローテーブルに宝箱を置く。鍵穴へ手に入れた鍵を差し込み回せば簡単に開錠できた。
すんなりと開いた宝箱の中を見る。
出てきたのは、また宝箱だった。
外箱より一回り小さいそれを取り出す。取り出した箱にも錠前が付いているが、今度は箱に鍵が張り付けてあることはなかった。
ならば、と外箱の方を見てみると蓋の裏側に紙切れが留めてある。
二つ折りの紙片を開くと、見覚えのある文字がそこにあった。
“まずはご飯。台所下”
指示書のような記述。従うべきだ。直感でも理性でもそう結論する。それに、起きてからまだ何も食べていない。
言われた通りキッチン下の棚を開くと、ここでも見覚えの無いものを発見する。
「アルファ米?」
五食セットが、ずっとここに有りましたよ、という顔をしていた。梱包されているのをまとめて引っ張り出してみると、鍵が張り付けてあった。正しい選択をした、ということだ。
簡素な説明書を見ながら、五目ごはんとドライカレーを用意する。
鍵と宝箱を横に、遅い朝食を頂く。
「非常食、結構いけるな」
新しい発見に驚きつつ考えるのは別のことだ。
これがレトルトだったら賞味期限が切れていた。
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