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宝箱から取り出したダイヤル付きの施錠ケースを手元に引き寄せる。
青いカードに記された数字を確認し、ダイヤルを1903に合わせると開錠が成功した。
そこにはもう箱は入っていなかった。
一枚の紙片だけだ。
“あとは、青空を見る、声を出して笑う。それが出来たら、必ず連絡してください。”
書かれたメッセージを読んだ瞬間、立ち上がっていた。
紙を握りしめたまま、スマホを取り上げて、足早にベランダへ向かう。
引き裂く勢いでカーテンを引き、窓を開け放ち、素足でそのまま外に出た。
ベランダから身を乗り出して空を見上げた。そこには薄い雲が広がり小雨が舞っている。冷たい水滴が顔を打った。
青空は無い。
「知ったことか!」
今やらなければならない。そういうものを受け取った。
勝手に口角が上がる。
深く息を吸い込み--空に向けてへたくそな笑い声を力いっぱいに放つ。
道を行く人が驚いたように振り向いた。近所の犬が張り合うように吠えた。最後には隣人が外に出てきて憤慨と共に文句を投げつけてきた。
どれも無視した。気が済むまで笑い声をあげ続ける。
さすがにもう声が出ないと、息を整えた所でふと気づく。
雲が切れて雨が止み、眩しい太陽と共に青空が顔を出していた。
雨で濡れた目元を拭う。
一つの連絡先を開く。
最後にメッセージを送ってから二年が経とうとしていた。
間違いの無いように文字を入力する。
「ありがとう」
伝えなければいけない言葉を声に出して送信。
既読はつかない。そんなものだ。弁解の余地がない。今更で迷惑な話かもしれない。それでも送らずにはいられなかった。
「さ、ちゃんと引っ越しの荷造りするか。ボドゲは全部持って行こう。決めた。とすると段ボール足りないな。買い足しに行くか」
久しく忘れていた。清々しい気分が体と心を動かした。
軽い足取りでベランダを後にする。
部屋に入って窓を閉める手の中で、スマホが着信を告げた。
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