宝箱

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 スマホが枕元で振動する音で眠りから覚めた。  寝ぼけた頭でアラーム音が鳴らないことを疑問しつつ、しばらくして、それが着信であることに気づく。  のそりとした動作でスマホを掴む。うっすらと目をあけて盗み見るように相手を確認した。 「オカンか」  起き抜けのかすれた声で呟き、短く息をついて着信を受け一声。 「--何?」 『何じゃない、あんたのお母さまだよ。全然出やしないで。あんた今起きたの?』  呆れの色が強い声音。それに僅かな苛立ちを覚える。 「起きなきゃいけない理由もないんだ。いいだろ、別に」 『んなこと言うけどね。たまに連絡が来たと思えば、四年も務めた会社を辞めたから帰るって言うし。ひと月後にはって言うのに待てど暮らせど音沙汰がないじゃないか。こっちにも準備があるんだよ』 「部屋が物置だって話なら、持ってく荷物は大して無いからそのままでいいよ。物置のままでも寝る場所くらいあるだろ」 『誰が息子を物置に置いとくかね。そうじゃなくて、引っ越しの準備の話だよ。お父さんが車出してくれるって言ってるから、業者の見積もりは要らないからね。荷物はどんくらいになりそう?』  確認に頭を持ち上げて部屋を流し見る。  閉まり切ったカーテンの隙間から入って来る明かりが、部屋の惨状を浮かび上がらせている。  ベッドの横には膨らんだゴミ袋がいくつも転がり、ローテーブルの上も似たようなものだ。乾燥機から引き揚げた洗濯物が山になっている所だけが、唯一ゴミ山からは逃れているが。  荷造り以前の問題だった。 「あー、大丈夫。段ボール三箱くらいで」  検討もつかないので、適当に数を告げる。 『あんた、何も進めてないね』  スマホに思考を覗き見る機能でもあるのかと疑いたくなるくらい的確に断言してくる。 「大丈夫、問題ないから」 『あんたの大丈夫ほど信用ないものもないんだよね』  心外なことを言う。やらなければならないことは、やり切って来たのに。 『電話して正解だった。目も覚めただろ、さっさと引っ越しの準備始めな』  それだけ言ったと思うと、こちらの言葉を待たずに通話が切られた。
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