欲望の歌

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 深夜0時のカラオケ屋は、ガラの悪い連中で溢れていた。派手な髪色の若者たちが酔って叫んで歌う様子は見ていて気持ちのいいものではなかった。 「俺は、この洋楽のバンド好きなんだよねぇ。Nirvanaっていうの」 反町がアメリカの古いバンドをカラオケの機械に入力していた。私は、歌える歌がなく、おすすめを見ていたら、アドリブで歌える歌を見つけた。 「おい、高橋。早く入れろよ。ん?アドリブで歌う歌?なにそれ……お前面白い歌を歌ってくれるんだよな!?」 反町がおかしそうに笑っていた。私は歌える歌がないので、仕方なくそれを予約した。アルコールのドリンクバーで酔いが回っていたのだ。 ――欲望の歌 画面にそうタイトルが表示され、おどろおどろしいヴァイオリンの伴奏が流れ始めた。黒い背景に真っ赤な花が回転しては、赤い雫が流れ続けるという映像には、反町も少し引いているようだった。 ――あなたの欲しいものを歌ってください…… イントロの後にそう表示された。私は、聞いたことがない歌なのになぜかメロディーを知っているように歌えた。 「欲しい欲しい すべてを買える 金が欲しい 女・心・体・世界 俺の思い通りにすべてを買い占めたい 欲望を買いたい 金で欲を満たしたい」 私は、狂ったように歌った。自分の抑えていた欲望を歌に乗せた。カラオケボックスのガラス戸の前に女の影が見えた。 ――あなたのしたいことを歌ってください 「世界を変えたい 俺の望む世界にしたい 誰もが俺を崇める世界にしたい 優秀な俺を認めさせたい この世界の王になりたい」 「あら。あなた。その欲望に満ちた歌声、気に入ったわよ」 黒いゴシックな服を着た、鮮血のように赤い髪色の美女が、私に声をかけてきた。私は、一部始終を見られていたことが恥ずかしく黙ってしまう。 「黙らなくていいのよ。あなたには、エゴを押し通す権利がある。今まで真面目に生きてきたのでしょう?」 「おお………!きれいな女の子に気に入られてるじゃねぇか、高橋!よかったな!」 「あなたは誰でしょうか?」 「私は、しがない音楽家よ。私の舞台で歌ってくれるかしら?」 もう、どうでもよいと思った私は、この得体のしれない女についていくことにした。
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