この家から。

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違和感がある。 ずーっと、身体が重たい。 野菜中心の生活、でもタンパク質もしっかり摂れているし。 毎日3食欠かさず食べている。 毎日7時間は寝ている。 体を動かすことも大好きだ。 毎日、筋トレも欠かさないし、1時間のウォーキングだってしている。 休みには、ジムに行ったり、水泳に行ったり。 健康には人一倍自信があった。 それなのに。 俺は、一か月前に引っ越してきた。 人事異動によって。 実家近くのマンションは住みやすく、休みにはよく帰れていたが、そうは言ってられない。 出張や異動が多い職場を選んだのは、紛れもなく自分なのだから。 実家からはかなり離れてしまった。 母さんは、週一ペースで連絡を寄越す。 互いの無事を、確認できる。 電話とは、いいものだ。 …………なんて、当たり前のことか。 今では。 体の不調が出始めたのは、引っ越してきてから10日経つ頃だった。 ずん、と身体が重くなったのだ。 それは、1分経たないくらいで元に戻る。 だから、初めのうちは気にしていなかった。 だが、今は3時間くらい重たさを感じている。 そして、小さな段差で躓く。 転けることはギリギリないのだが、続くと怖い。 病院にも行ったが、異常はない。 会社では、何も起きない。 だから、余計に怖かった。 「………………先輩、」 「おー。どした?」 ある日。 帰ろうとした俺に、後輩が話しかけてきた。 気持ちのいい挨拶をして、明るい男だ。 俺は彼を気に入って、何度か一緒に呑みに行った。 「先輩。家で何か起こってませんか?」 「え?」 「…………身体が重くなったり、転けたり」 「あ、あぁ。けど、何で知ってるんだ?」 だって、俺の仕業ですもん。 「な、何言って…………」 「だって俺、」 もう死んでるんですよ? 先輩、忘れちゃいました? -------いじめてた、俺のこと。 あの家に俺、ずーっと住んでたんです。 いえ、 「今も」 恨みは、解けないんですよ。 今度は僕がずーっと先輩を可愛がってあげますね。
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