いなくなった彼

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しばらくして。冬弥は自分の部屋にいた。  あの後、自分の席から動けず、呆然としているところを、中島先生が連れてきてくれたのだ。    お前はあいつとずっと一緒だったもんなぁ、つらいよなと目を潤ませてか細い声で肩に手を置く担任に、冬弥は何も返すことができなかった。    心の底からの哀れみを含んだ目に見送られ、冬弥はその場を後にした。その後、先生の車に乗りこみ、自分の家へと帰ってきたのだった。    部屋の壁に貼られていた、春真と撮った写真を1枚ずつ剥がしていく。剥がした写真を集め、ゴミ箱に捨てようとするもなんとなく気が進まなくて。    冬弥は押し入れの中から箱を持ってくると、その中にバラバラと乱雑に写真を入れていった。    壁紙に設定してある高校の入学式の写真。学ランを着て、胸に花を飾っている、中学の卒業式での写真。    ずいぶんと幼い2人が、プールで水と戯れている写真、舞う花びらの下、ランドセルを背負った春真の写真。うららかな春の木漏れ日に照らされ、色素のうすい瞳がきらきらと輝いている。    「春真……。なぁ、なんで……」  冬弥の声が震える。満面の笑みを浮かべる紙の上の春真に雫が落ちた。   「なんで、死んじゃったんだよ。……俺とは恋人にはなれないって、男なんて好きになれないって、そう、伝えてくれればよかっただけなのに……。」    どんなに涙を流そうとも、彼は帰ってこない。    告白なんて、しなければよかった。    止まらない涙を手の甲で拭いながら、春真はスマホをシーツに叩きつける。柔らかい布地の上に落ちたそれは、当たり前だが傷ひとつつかない。    それがなんだか無性に苛立たしくて。それでも人に買ってもらったものを壊すわけにはいかない。冬弥は枕に顔を埋めた。くぐもった泣き声だけが、茜色の光が射し込む部屋に響いていた。
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