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ポーン、と時計が時間を告げる。顔を上げてみれば、時計は長い針が12、短い針は1を指していた。もうすっかりお昼の時間だ。
「もうこんな時間か……春真、お昼何にする?」
「ん? ああもう一時か。こっちってあっと言う間に時間が過ぎるな」
「こっちって……じゃあ、向こうの……あっち側の世界は違うんだ?」
冬弥がカップうどんをふたつ手に取りながら尋ねる。春真は腕を組むと、上に伸び上がりながら答えた。
「ああ、なんていうか、時間の感覚がないんだよな。遅いとも速いともつかない、ただ時が止まってるような、そんな感じ」
「そうなんだ。あまり楽しそうじゃないね」
「まあ、色々と遊べるものはあるけどな。でもこっちほど楽しくない」
「へぇ……」
春真は受け取ったカップうどんーー赤色のふたがついている容器にお湯を入れ、今か今かとばかりにうどんの容器に顔を近づけている。
冬弥が緑のうどんカップを手に隣に座ると、春真はくるりと振り返り。
「飯食ったらゲームしようぜ」
そんなことを言った。
「気持ちはありがたいけど……俺勉強しなきゃだし……」
「勉強はさっきたくさんしただろ。たまには遊ばないと。どうせ、詰め込んだって覚えられる量なんて決まってるんだから」
「まぁそうだけどさ……。俺、また夕方から塾だけどいいの?」
「いいよ。なんもできないよりは遊べた方が嬉しいし」
冬弥は机の上に並べたままのノートたちへと視線を向ける。ところどころ赤いペケがついているものや、真新しい付箋が貼り付けられているもの。
受験までは今月を入れて約半年。遊んでいて大丈夫だろうか。しかし、最近めっきりと遊ぶ機会が減ってしまっていたのも事実だ。
「じゃあ、少しだけな。何やる?」
「よし来た! んじゃスピントゥーンでもやろうぜ。ナツミたちが暇なら誘ってもいいし」
画面にカラフルなインクで彩られたゲームステージが映る。ヒトに似た形の、しかし別の生命体らしいキャラクターがタイトルを読み上げた。
「何やる? アジの乱獲してもいいけど」
「うーん。久しぶりだし、普通に陣地取りやらね?」
「おっけ。じゃあそうしよ」
冬弥はコントローラーを操作し、ノーマルステージを選択する。武器を選び、装備を選んで準備は完了だ。
ステージが映し出され、試合開始までのカウントダウンが始まる。冬弥は手元のコントローラーをぎゅっと握りしめた。
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