2人が本棚に入れています
本棚に追加
冬弥と別れ、春真は炎天下の道を一人歩き出す。
(まだ帰るには早いか。適当にスポーツ専門店にでも寄って新作を見てくるかな。この暑さにも辟易としてきたところだったし、涼むのにもちょうどいいかもしれないし)
春真はふいに立ち止まり、後ろを振り返る。続く道の先、随分と小さくなった冬弥の背中が見えた。
「やっぱ言えなかったな……」
アイスを食べながら、何かを期待するような目つきで自分を見上げた彼。その意味も、彼が何を期待したかも、全部分かっていた。なにせ、死ぬ前の日の出来事だ。忘れるわけが無いだろう。
しかし、彼の期待に応えることはできない。
冬弥は自分が生き返ったことを喜んでくれたが、それはいっときだけだ。許された時間が終われば、俺はまたこの世界を去らなければならない。根拠はないが、それは確固たる事実だと思った。
2度も好きな相手を失う辛さは計り知れないものだろう。冬弥にはそんな思いをしてほしくない、だから変に期待させてはいけないのだ。
「ごめんな、冬弥」
あそこで自分がヘマをしなければ、彼が願っている生活も夢ではなかったのだろう。冬弥は謙遜しているが、彼はきっとK大に合格する。そしたら2人で同じ電車に乗って、学食を食べたりしたのかもしれない。しかし、それはもう、全て夢の話だった。
あの朝、大した考えもなくとった行動。それが全ての始まりだったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!