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ようやくたどり着いた神社は、祭りにはしゃぐ人たちでごった返していた。境内では、太鼓の周りに法被を着た人が集い、笛の音とともに踊っている。
冬弥は自転車を木陰に置くと、ふらりと屋台が建ち並ぶ参道へと向かう。
途中、何かの視線を感じた気がしたが、冬弥は構わずに提灯に照らされた細道を歩いて行くのだった。
「いらっしゃい! 焼きそばひとつ百円だよ!」
屋台の並ぶ参道では、威勢のいい声が飛び交っていた。隣には小さな女の子が金魚の入った袋に目を輝かせ。前には自分と同じか、少し年上くらいの男女がぴったり並んで歩いている。絡み合った手に気づくと、冬弥はそっとそこから目をそらした。
なんでこんなところに来てしまったのだろう。冬弥は深くため息をつく。祭りの音がただうるさかった。
楽しそうな家族連れや、カップルとすれ違うたびに胸が締め付けられる。どの人も親しい人と連れ立って楽しそうだ。なのに、自分の隣に彼はいなかった。こみ上げる嗚咽を抑え、冬弥は再びため息をついた。
もし、あの出来事がなければ、彼は今も隣で笑っていたのだろうか。
だめだ。冬弥は小さく首を横に振った。何を見ても、何を聞いても彼のことばかりが頭をよぎる。彼の笑い声がないことに胸を掻きむしりたくなる。
制服を着たカップルの女の方が笑い声をあげる。とても、楽しそうな声だった。居ても立っても居られなくなり、冬弥は足早に参道を駆け抜けた。
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