過ぎた冬の日のこと

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歩きながら制服のポケットに手を突っ込み、スマホを取り出すと画面をつける。デフォルト機能のデジタル時計版には13という数字が表示されていた。  時刻表示の下には冬弥と春真、そして彼らの家族が映し出されている。  どこか緊張した面持ちで鞄を抱く冬弥と、満面の笑みでピースしている春真。その後ろには『都立星蘭高校入学式』と書かれた札が校門に立てかけられていた。これは入学式の時の写真だ。  冬弥はその写真を眺め、口元に微笑みを浮かべる。  春真とはいわゆる幼馴染というやつで、小学生の時からなんだかんだと同じ学校へと進んでいた。初めは家が近いからよく一緒に遊ぶ同級生でしかなかったのだが。歳を重ねるごとにだんだんと魅力を増していく春真に、冬弥はいつの間にか切ない想いを抱いていた。  春真は、生来人好きでノリが良く話も上手で。その甘くも整った顔立ちも相まって、高校に入学してから1週間も経った頃には、すっかりクラスの人気者になっていた。  毎日、昼休みになると、春真の机の周りにはクラスの中でも一際きらびやかな一団が集まる。艶やかな髪の毛を結い上げた女子に、俳優似の彫りの深い顔の男子。  そんな集団の中に自分がいるのはいたたまれなくて、冬弥は昼休みの訪れを告げるチャイムが鳴ると弁当を手に、空き教室へと向かっていたのだった。  冬弥が弁当を食べ終え戻ってくると、彼らは大抵、最近見たドラマの話や、好きな芸能人の話なんかで盛り上がっていた。そんな彼、彼女らを横目に自席へ座り、素知らぬ顔で彼らの会話に耳をそばたてるのが冬弥の日課になっていた。  春真は自分といる時とは全く別の話をしていた。彼は多趣味でフットワークも軽いため話の引き出しが多い。だから自分とだけでなく、煌びやかなクラスメイトとも話が合わせられるのだろう。さすが春真だと、そう思う。  しかし、そうはわかっていても、面白くなかった。  自分の知らない春真の、一面を見聞きする度、黒くどろりとした感情が腹の底から湧き上がった。春真のことを1番知っているのは自分だと、あのケラケラと笑っている連中にそう言い返してやりたかった。  しかし、現時点では彼は誰のものでもない。彼が誰のものでも無いのなら、誰が彼と話したとて文句は言えないのだ。それに、そんな1番と言えるほど彼のことを知らない。そんなことはわかっていた。  冬弥は唇を強く噛み締めた。  春真の傍にいるのは自分が良かった。彼の視界に映るのはいつだって自分だけであってほしかった。 しかし、そんなこと創作物の中ではともかく、現実には許されはしないのだ。ならばどうすればいいのか。 冬弥の頭は日増しにそれだけでいっぱいになり、授業中ですらその方法についてがぐるぐると頭の中を回っているのだった。
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