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記憶を失った?
だから俺のことを覚えていない?
それなりに仲が良かった俺のことを覚えていないのはあまりにも不自然だとは思っていた。
それより……。
「月城。『あなたに全部奪われたの』ってどういう意味だ?」
小学校を卒業してからその後、二、三回の同窓会以外で俺たちは会ったことはない。その後の繋がりはなかったはずだ。
月城に何かの……記憶を失くすという人生をひっくり返すような重大事件が起こっていたことすら俺は知らない。
「それでも人間なの? わたしみたいに記憶を失くしてるわけじゃないのに、自分が殺めた人間のことを、どうやったら忘れられるの?」
「あ……? 殺めた? 殺めただと? 俺がか?!」
仰天する俺に、月城は、片側の唇だけをあげるような心底蔑むような表情をした。こんな彼女の顔は、小学校時代も再会してからも見たことがない。
「入社の面接の時さ、どんな顔するのかと、両親の事故のことをわざと話してみたんだよね。ちょっとは良心の呵責に苦しむかと思ってさ。結構、同情はしてくれたのか顔色が失せてたから、それなりの感情はあるんだな、と思ったよ。月城、って苗字は知らないはずなのにね」
「苗字? いや……。なんの話だっての。最初からちゃんと聞きたい」
「自分の起こした無免許運転で二人も殺めておいて、未成年だからってごく軽い罪で済んでる。世間に名前も公表されず、今や大注目されるグロース企業の副社長だもんね。人生って不公平もいいとこだよね」
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