298人が本棚に入れています
本棚に追加
/246ページ
悲しく暗い底なしの池のような虚無と同時に、果てしない憎悪がこもった瞳が俺を刺す。興奮して上ずる声音をどうにか抑制しようとしている。
「待ってくれって、月城! 俺にはなんのことだか本当にわからない。俺は無免許運転で事故を起こしたことはない」
「これでもそう言えるの?」
月城は簡単な操作をしてから、俺にスマホを突きつけてきた。
目を凝らしてよく見ると、それは裁判記録のようだった。
「裁判は非公開だったしメディアも未成年だからって名前を報じることはなかった。今ほどSNSが発達した時代じゃなくて、実名が世に出ることはなかった」
「……マジか」
そこにあった被告の名前は〝村上健司〟だった。
「当時、未成年で精神的ショックが大きいとかで、弁護士が間に入って加害者には被害者の情報は徹底的に伏せたんだってさ。だから月城って苗字にも思い当たることはなかっただろうけどね」
いや、いくら未成年でも、被害者が加害者の名前を知らないなんて、無理はないのか? いや法律には詳しくないけど。
被害者の情報は徹底的に伏せたんだってさ、と月城は言った。
〝だってさ〟と。
つまり誰かからそう教え込まれたという事だ。
最初のコメントを投稿しよう!