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最初に俺が卒アルを出した時点で、それに見覚えがあれば、反応したはずだ。でも月城はなんの反応も示さなかった。
いや、それ以前に、もし渡されていれば夢中で見入っただろうから、自分と同じクラスに村上健司という、両親の事故を起こした加害者と同姓同名の男子がいたことに気づくはずだ。
月城に、記憶が戻られちゃ困るのだ。
それが俺の存在だけなのかどうかはわからない。
違う……月城が事故にあった当時はまだ中学二年だ。
のちに俺がCanalsの副社長になるだなんて、予想だにしないことのはずだ。俺は関係がない。
なら、なんだ? どうしてだ?
月城の様子を見ると、ページを繰る細くて白い指が小刻みに震えている。
「月城……?」
「……わたし、幸せそうだね。ほんとは幸せだったのかな、この頃。パパもママも生きてて、二葉も病気になってなかった」
「病気?」
二葉とは、月城の二つ違いの妹だ。
「うつ病。両親が亡くなってからうつ病と失声症、両方を発症してる」
「失声症……って、声を出せないってこと?」
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