◇◇村上健司◇◇ 対峙

26/52

288人が本棚に入れています
本棚に追加
/242ページ
いや、実家に行って、アルバムを見ないなんて、そんなことがあるのか? 実家なんてアルバム以前に記憶の宝庫だ。 まさか実家にも連れて行かなかった? 「今までどうしてたんだ? 中二で親がいなくなったなら、誰かに保護されて、育ててもらってたってことだよな。妹の二葉ちゃんだって難しい病気になっちゃったんだろ?」 「そう。記憶を失った娘と、生きることに絶望して声を出せなくなった娘。すごく大変な娘二人を引き取ってくれたのは叔父さん夫婦。自分の息子がひとりいたけど、その子と分け隔てなく育ててくれた」 「恩があるんだ」  月城は黙ってうなずいた。 「じゃあ今回、こんな危ないことを月城にやらせようとしたのは、どうして?」 「……わたしが、被告人の村上健司を、すごく恨んでるのを知ってるから。……わたしの無念を晴らそうとした」  俺から視線を()らせたまま、月城はぽつりと答えた。 まだ俺を完全に信頼はしていない。俺の言葉よりも、育ての親の〝叔父さん〟の方が強い。
/242ページ

最初のコメントを投稿しよう!

288人が本棚に入れています
本棚に追加